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【6】

 熱い息を繰り返しながら、時折苦しそうな表情を浮かべる圭志。彼の口からゆっくりと、そして切々と紡がれるのは誰にも知られることのなかったはずの過去。  許嫁と呼ばれる得体の知れない男の企てで多数の男たちに犯され、妊娠。自分の子でないことを妬んだ彼から与えられたDV。そして――流産と体の変調。  体だけではない、その時に負った心に傷は、今でも当時の痛みを何度もぶり返しては圭志を追い詰めていった。  今まで一人で抱え込んできた苦痛を言葉にするたびに、喉が締め付けられ声が掠れた。嗚咽に肩を震わせるたびに仁の手が優しく頬を撫でる。堪え続けて来た涙をすべて流し終えた時、圭志は小さく鼻を啜りながら顔を背けた。 「――俺は穢れてる。お前が望むような明るい未来はない」  か細く声を震わせながらそう言った圭志だったが、抑制剤の効き目が確実に切れていることに気付いていた。  このまま彼の腕から抜け出して帰宅の途についたとしても、マンションに辿りつく前に身も知らぬ誰かを誘い、「浅ましい体を鎮めてくれ」と懇願することになる。  そしてまた悲劇を繰り返す……。 「俺には『運命の番』なんてハナっから与えられていなかったんだよ。神様は不公平……だ」  長身を丸めるようにして横に寝返った圭志。彼の言葉を一語一句聞き逃すまいと真剣な眼差しで聞き入っていた仁。  プライドが高く、完璧主義者。αだと偽っていても、誰にでもそう思い込ませることが出来るほどの能力を持ったΩ。  そんな彼が見せる弱さに、仁の心は激しく今まで以上に揺さぶられていた。  仁の大きな手が圭志のワイシャツの合わせに滑り込んだ。  それまで身じろぐこともせず、言葉を発することもなかった仁の行動に、圭志は息を呑んで身を強張らせた。  彼の滑らかな肌の感触を確かめるように撫でる。そして胸の突起を避けるようにしてワイシャツから手を引き抜くと、そのボタンを一つ、また一つと外していく。 「大名っ」  咄嗟に声を上げた圭志を覗き込むように身を屈めた仁は、耳元に唇を寄せて囁いた。 「――汗かいてますけど、このまま貴方を抱いてもいいですか?」 「え……?」 「今……。今すぐ抱きたい。一分一秒でも早く……。誰にも渡さない。貴方は俺が守ります……命をかけて」 「大名……」  横たわる圭志の耳殻に舌を這わせながら、自らの上着を脱ぎ捨てていく。 「いや……っ。やめろ……っ」 「やめない。今やめたら、逃げるでしょう?――また同じことの繰り返し。もう、終わりにしましょうよ。つらい過去に囚われ続けるのは……」  ピチャッと水音を立てて耳殻から首筋へと移動する仁の舌の動きに、圭志の下半身はすでに大量の蜜を溢れさせていた。  スラックスの生地が煩わしくなるほど張り詰めたその場所は、卑猥な形をくっきりと浮かび上がらせている。  肌を這うように動く唇。まるで圭志の味を確かめるようになぞる舌先。 「――んふっ」  触れられただけでは感じることのなかったその場所が熱を帯び、ムズムズとしたくすぐったさを覚え、それが次第に快感の糸口へと変わっていく。  ボタンをすべて外し終えたワイシャツをはだけ、露わになった肩先にやんわりと歯を立てられる。薄らと痕が残った場所をなぞるように舌先が滑るだけで、圭志は全身を小刻みに震わせて小さく啼いた。 「あ……いやっ」 「いい声……。俺、あの時に気付いたんです。どこに触れても感じることのなかった貴方をイカせる方法……。掌での薄っぺらい愛撫じゃ貴方は満足出来ないし、それを施す相手を信じることが出来ない。貴方を心から愛する者でなければ出来ない行為――」  片袖を抜かれ左胸が露わになった圭志を上から見下ろしながら、仁は嬉しそうに微笑んだ。  内面から湧きあがる快感に反応し、硬くしこった乳首がツンと尖る。そこを大切そうに指先で捏ねながら、唇を寄せて吸い上げた。 「んん……っ!」  細い腰がビクンと跳ね、抗おうとする手が仁の肩を押した。しかし、その抵抗は虚しく次々と与えられる舌先での愛撫に力なくシーツに崩れ落ちた。  ピチャピチャとわざと音を立てて執拗に舐め続ける仁の髪に指を埋め、逃げようとするが体を挟まれるようにがっしりとホールドされているために動けない。  手での愛撫では感じなかったその部分が熱く火照り始める。 「いや……だ。そこ、ばっかり……」  自然に出てしまう鼻にかかった声では、完全に抑制剤が切れフェロモンを垂れ流している圭志にあてられた仁を余計に煽るだけだった。  左胸ばかりを舐め続ける仁の長い睫毛が揺れる。時折上目遣いで圭志の表情を伺う欲情した栗色の瞳はどこまでも優しく、そして熱量を含んでいた。 「やだぁ……。だ……だいみょ……ぅ」 「――俺の家系は代々、狼の血を継いでいるんです。どの獣よりも独占欲が強く、生涯を共にすると決めた者には異常なまでの愛情を注ぐ。そして、伴侶が傷つけば癒えるまで舐め続ける。これからは、貴方の心の傷をこうやって癒してあげます。この体が俺を信じ、全部で感じてくれるまで……ずっと」  尖った乳首を爪先で弾きながら舌先を絡める。その感触がじわりじわりと全身に広がり、圭志はシーツを掴み寄せて顎を思い切り反らした。 「あ……イ、イクッ!」  一際大きく腰を跳ねさせた瞬間、圭志のスラックスにシミが広がっていく。独特の青い匂いを発し、粘度のある体液が冷えた部屋の空気に晒されて徐々に冷えていくのが堪らなく嫌だった。  その様子を嬉しそうに見ていた仁はその場所を掌で押えると、まだ温もりを感じる圭志の精液を指に纏わせながらベルトを外し前を寛げた。 「いっぱい出ましたね……。でも、まだ足りないでしょう?」  愛液と吐き出された精液に濡れた下着のウェストから手を差し入れて、滑った下生えをなぞりながら余韻に震えるペニスをキュッと握りしめた。 「あ……。いやぁ……ダメッ」 「何がダメなんですか? こんなに濡らして……。全部、綺麗にしてあげますからね」  掌で精液を肌に広げるようにしながら、下着をスラックスごと下げていく。内腿まで流れた精液をさらにその後ろにある秘めた蕾に擦りつけるように指を動かす仁に、圭志は顔を真っ赤にして小さく叫んだ。 「やめ……ろっ」 「やめませんって……。ここも、いっぱい感じさせてあげますから」 「感じないって……言ってる、だろっ」  自分の恥ずかしい姿をこれ以上見せまいと、霞む視界の中にいる仁を思い切り睨みつける。  しかし、そこには普段の圭志が見せる威厳はどこにもなかった。今はただ、αの子種を欲するだけの発情したΩでしかない。それでも、わずかに残った理性とプライドを奮い起し、乳首を弄びながら下肢に指を這わす仁を払いのけようと上体を起しかけたその時、そのタイミングを待っていたかのように仁の力強い腕が彼の体を抱き寄せ、うつ伏せに組み敷いた。 「な……っ」  そのまま腰を掴まれ高く引き上げられると、膝下にスラックスを纏わりつかせたまま精子に濡れた蕾を仁の前に晒した。 「こんな、こと……許さない、ぞ!」 「――何事もやってみないと分からないでしょう?」  圭志の閉じられたままの腿の間に足を差し入れ大きく開かせた仁は、肉づきの薄い双丘に両手をかけると、力を込めてそれを左右に広げた。  冷えた空気が精子に濡れた蕾を撫でる。ゾクリと身を震わす圭志を尻目に、仁はうっとりと目を細めて小さく息を吐いた。 「綺麗だ……。こんなに綺麗な聖域を犯した男、俺は絶対に許しません」  ゆっくりと顔を近づけ、蕾にふっと息を吹きかける。そして、掌で双丘の感触を楽しむかのように撫で回しながら、ペニスの茎からたっぷりとした睾丸、蟻の門渡りを経て慎ましく鎮座する蕾にゆっくりと舌を這わせていく。  精液に濡れたペニスはベッドに仰向けになり歯を立てない様に唇で咥えると、張り出したカリの周囲に丁寧に舌を這わせ、こびりついた精液をかき取るように吸い上げる。その度に、ビクビクと震えながら硬度を増していく圭志が愛おしくて堪らなかった。何年分――いや、あの一件があった以降、こうやって彼のペニスに触れる者はいなかったはずだ。彼自身も自慰をすることもなかったと言っていた。  機能を失ったとはいえ、男としての本能には逆らうことは出来ない。  現に勃起もすれば、吐精する事も出来る。ただ、そこに向かうまでのプロセスが難しいというだけのことなのだ。 「やだ……やだぁ。放せ……」  シーツに頬を押し付けたまま、うわ言のように繰り返す圭志ではあったが、吐精したにも関わらずそのペニスはすぐに力を蓄え、仁の喉奥を圧迫し始める。鈴口から溢れ出す蜜は甘く、とめどなく流れては仁の口内を潤していった。  ヒクヒクと開閉を繰り返す鈴口に舌先を差し込むと、圭志の腰が艶めかしく揺れる。 「ん……はぁ、はぁ……。やだ、それ……やめ、ろ」 「やめろ」と言いながらも、背中で息を繰り返す圭志の声は甘く濡れていた。  ジュボジュボと音を立てて何度も吸い上げ、先端を舌先で抉る。下生えにも舌を這わせ、先程吐き出した精液を舐めとった仁は、すっかり勃ち上がったペニスを解放すると体を起してベッドに膝をついた。  仁の口淫で力を取り戻した圭志のペニスは下腹につきそうな勢いで大きく跳ねた。  どれだけ溜め込んでいるのかと思うほどたっぷりとした睾丸を口に含んで転がし、そのまま蕾へと舌先を這わせていく。  圭志の濡れた声が暗い部屋に散らかり、淫靡な空気に支配されていく。  仁は身に付けていたワイシャツとスラックスを何の躊躇いもなく脱ぎ捨てると、引き締った体を圭志の前に晒した。 「――ゆっくり解してあげますから。貴方に酷いことはしません」  そう言いながら蕾に唇を寄せた仁に、圭志は焦ったように肩越しに振り返った。 「やめろ! き……汚いからっ」 「汚い? 何がですか?」 「それは……その……。そういった……準備……とか……」  羞恥に声を震わせながら涙目で訴える圭志の尻にチュッとキスを落とした仁は、余裕あり気に口元を綻ばせた。 「どこまで可愛い人なんですか……。貴方の身体で汚いところなんてどこにもない。全部、受け止めると言ったでしょう?」 「でも……っ! それとこれとは……話がっ」 「違わない」  何とか回避しようと必死になる圭志の言葉を鋭く遮った仁は、迷うことなく蕾に舌先を伸ばした。 ほんのりと色づいた蕾はまるで処女のように慎ましく、Ω特有の美しい形状をしていた。それを見ているだけで自然と引寄せられるのは、仁が圭志に心底惚れている何よりの証拠だった。 『運命の番』の前に体を晒すΩは自分の一番美しい姿を相手に見せるという。それはαである相手を虜にすると同時に本能的に相手を認め、番になることを受け入れることを意味するからだ。  口では拒むばかりの圭志ではあったが、彼の体は確実に本能に従い、自身の体をより美しく変えていた。  その蕾の皺に沿って舌先を這わせると、発情期特有の甘い香りが立ち込め、仁の舌先にもあのチョコレートのほろ苦い甘さが広がった。 「――ん。チョコレート……美味しい」 「いやぁぁぁ!」  栗色の柔らかな髪を乱し、シーツを掴み寄せて叫んだ圭志の尻たぶに力が入り、左右対称に窪みが出来る。  キュッと収縮した蕾を抉じ開けるように、仁は細くすぼめた舌先で薄い襞をやんわりと割り開いていく。 「いや、いや……! 汚い……嫌だ……嫌っ」  鳴き声にも似た圭志の声がシーツに吸収されくぐもって聞える。それでも、ビクビクと跳ねペニスの先からは溢れた透明の蜜が飛び散り、シーツをしとどに濡らしていった。 「あ、あっ……。あぁ……はぁ、はぁ……はっ」  断続的に息を切らしながら仁の舌を受け入れた圭志の思考はもう、まともには働いてはいなかった。  自分の一番デリケートな場所を舌先で攻められている。その動きに失ったはずの腹の奥の器官がズクリと甘く疼いた。  震える手を伸ばして自身の下腹をギュッと力任せに押えこむ。しかし、甘ったるい疼痛は止むことはなく、さらに過敏になっていく蕾から伝わる熱が中の粘膜をあり得ないほど蠢動させている。 「やぁ……っ。だい、みょ……いやぁ……っ」 「まったく……。どこまで素直になれないんですか。もう薬はとっくに切れて、俺のモノをこんなに欲しがってヒクヒクしているって言うのに。――ほら、ちゃんと呼んでください」 「え……? え……っ」 「俺の名前……。ちゃんと呼んで……圭志」  そう言いながら仁が長い指をツプリと蕾に差し入れた瞬間、圭志の背中がブルブルと震え、ぐっと頭を擡げたペニスの先端から白濁混じりの蜜がドロリと零れ落ちた。 「か……っは……ぁっ」  一瞬身を強張らせ仁の指をきつく食い締めた圭志は、内腿を痙攣させながら熱い息を吐き出した。 「――イッちゃたんですか? 射精もしないで……」 「イッ……て、ない。気持ち……よく、なんて……ないっ」 「また意地を張る……。圭志の中、熱くて……気持ちいい。身体の中は感じるみたいですね……。良かった……」  意固地な子供をあやすかのように柔らかな声音で言う仁の声を心地よく感じながらも、圭志は未だに止めることの出来ない体の震えに奥歯を噛みしめていた。  頭の中が真っ白になった……。こんな快感はあのコピー室以来だ。  恐怖にも思える何かが腰から背筋を通って脳髄を直撃する。その痺れはどこまでも甘く、気怠さを含みながら毒のように全身を包み込む。  なかなか整わない息を繰り返す。汗で張り付いたワイシャツが煩わしい。  体から発火するのではないかと思うほど熱くて堪らない。吐く息も熱を孕み、そこらじゅうが痺れている。  仁は指を差し入れたままなおも舌先を捻じ込んで蕾を愛撫し続ける。その指が二本、三本と増やされ、中で折り曲げるたびに圭志のいい場所を掠めた。  その度に電撃のような快感が走り、雌猫のように声を上げた。  背中をしならせ、肩甲骨をぐっと寄せて快楽に酔う圭志の姿は何よりも美しく妖艶だった。  その合間に仁は自身のペニスを扱きあげ、いつも以上に昂ぶり硬度を増した楔を見つめ、満足げに笑みを浮かべた。  優秀な子種を継ぐ狼の血族。そのペニスは長大で女性の腕ほど太く、押さえつけても弾けるほどの硬度を持っていた。  十年以上ものブランクがある圭志の蕾に強引に突き入れるのには少々無理があるように思えたが、発情期のΩはそれに対応すべくすぐに蕾を柔らかく綻ばせる。  なるべくならば傷つけることはもちろんのこと、痛みを伴わせたくはない。  また、過去を思い出させるような真似はしたくない。仁は逸る気持ちを必死に押えこみながら、圭志を何より大切に扱った。  たっぷりと唾液を流し込み、指と舌先で念入りに解した彼の蕾は先程よりも赤く潤んでいる。圭志の身体から自然と溢れ出す愛液によりブランクを感じさせないほど妖しく艶めいていた。 「――圭志」  低く掠れた仁の声に、圭志の体がピクリと動いた。  彼にも分かっていたはずだ。自身の体が彼によって与えられる快楽で熱く火照り、求めてやまないモノを欲していることを。  たっぷりと溢れる愛液を纏わせた指を焦らす様に引き抜くと、圭志の腰が揺れ、それまで美味そうに咥えていた蕾が寂しそうに口を閉ざしていく。  指から滴る蜜が糸を引きながらシーツに落ちていった。  その蜜を自身の蜜に塗れたペニスに擦りつけながら数回上下に扱きあげると、まるで媚薬を使ったかのように先端がジワリと熱くなった。  拒み隔てるものを割り裂くほどの硬さを持った先端がヒクヒクと収縮を繰り返す蕾に押し当てられる。  その衝撃で一瞬腰を引いた圭志を引寄せ、両手でしっかりと固定すると、仁はぐっと腰を突き込んだ。 「んあぁぁぁ――っ」  ヌプッと湿った音を立てて蕾の中心を割り開いた楔の茎に透明の蜜が伝う。  そして、ギュッと千切れんばかりに締め付けた圭志は、何度目かも分からない快感に身を震わせ、自身のペニスを大きく跳ねさせながら吐精した。  一度出したとは思えないほどの量がパタパタッと質量のある音を立ててシーツに散らかる。  彼の中ではうねる様に蠢動した粘膜がまだ先端しか入っていない仁のペニスを喰い締め、心地よい痛みと快感に眉を寄せた。 「――まだ挿れただけですよ。外は鉄壁の守り、でも中は……イヤらしく俺を喰い締める淫らな情夫。どちらが本当の貴方なんですか? 圭志……」 「ごめ……ん、な……さぃ」 「謝ることはないですよ。俺はどちらの貴方も愛していますから……。ゆっくり時間をかけて、鉄壁の守りを崩していってあげます。俺の手でもイケるように……ね」  どこまでも優しく言葉を紡ぐ仁に、圭志の体はどろどろに蕩けていく。 (これが『運命の番』なのか……)  何もかもが心地いい。気持ちが良すぎて、頭が変になりそうだ。 「もっと……奥、欲しい……」  部下に向かって甘えた声で強請ることなど、圭志には考えられない事だった。しかし、それがさも当たり前のように唾液で濡れた唇からついて出る。  仁の指が細い腰に食い込む。それを合図に再び腰をぐっと押し進めた仁の太さと硬さに上手く呼吸が出来なくなった。  酸素を求めて小刻みに呼吸を繰り返す。久しぶりに受け入れる長大なペニスに体の準備が整っていなかったようだ。 「大丈夫ですか?」  動きを止め、不安そうに身を屈める仁のモノが中でグリッと内壁を抉った。 「んあ……あぁっ。ダメ……うご、く……なっ」 「でも、圭志が……」 「なか……グリッって……あぁ……気持ち、いいっ」 「まだ半分も入っていませんよ?」 「奥……突いて。もっと……欲しい……」 「大丈夫ですか? 辛くないですか?」 「だ……じょう、ぶ……だから。じ……仁の……精子……欲し……ぃ」  肩越しに振り返った圭志の目は欲情に潤んでいた。そこには気難しい上司の顔はなく、ただ愛する者の子種を欲するΩの姿があった。  半開きのままの濡れた薄い唇の端から涎が糸を引く。上気した頬は薄らとピンク色に染まり、汗ばんだ体も心なしか淡く染まっている。  誘うように腰を揺らし、彼のモノをさらに奥へと誘うかのように目を細める圭志に、仁はゴクリと唾を呑みこんだ。 「――今、仁って……」  トクンと跳ねた心臓の鼓動が断続的に激しく打ち続ける。  愛する男に名を呼ばれたことで、自身の存在が受け入れられたように思えた瞬間だった。 「圭志……」  愛情をこめて再びその名を呼ぶと、気怠げに栗色の髪をかきあげてシーツに頬を埋めて微笑む。 「仁……早く、きて」  赤い舌先をのぞかせてはにかむ圭志に、仁のペニスがググッとさらに力を漲らせた。  日常生活ではあり得ない野性の力というべき本能が仁の体に宿る。  最愛の伴侶となる男に自らの子種を注ぎ、子孫を繋いでいく。 「はぁ……はぁ……圭志……。もう、我慢……出来ないっ」  そう呟くなり仁はそれまでセーブしていた力を解き放つように、みっちりと咥えた圭志の蕾をさらに押し広げるように太い楔を一気に突き込んだ。 「やっ。あぁ……あぁ……っくぅ!」  メリメリと音がしそうなほど限界まで広げられた薄い襞。そこに仁の下生えが触れるほど奥深くまで突き込まれた楔は、圭志の最奥まで到達していた。   そこは、男であって男でない部分――そう、今はもう機能しなくなった子を成す器官。  その入り口を硬い先端がグイグイと押し上げ刺激を繰り返す。  長大なペニスに体を貫かれ、内臓が押し上げられる猛烈な圧迫感に短い喘ぎを繰り返しながらも、圭志は自身の中に仁の体温を感じて幸福感に満たされていた。  嬉々として迎え入れた灼熱の楔を柔らかな羽毛のような襞が包み込む。その形を記憶するかのように纏わりつき、脈打つ波動を感じ取ってはそれを快感として脳へと伝達する。 「ん……あぁ……いいっ。奥が……気持ち、いい!」 「どこに当たってるの? 教えて……」 「腹の……奥……。し、きゅう……の入口……っはぁ」 「どうして欲しい?」 「突いて……っ。壊れるまで、突いて……」  圭志の背中に汗の玉が浮かび、それが腰を振るたびに脇腹へと流れていく。  身を屈めてその汗を舌先で掬いながら、仁はゆらりと腰を揺すった。 「んあぁぁ――っ」  背骨を浮き立たせて身を強張らせた圭志が歓喜の声をあげる。  みっちりと茎に張り付いた襞が抽挿すたびに捲れあがり、まるで別の生き物のように見える。  グチュグチュと耳を塞ぎたくなるほど恥ずかしい水音が聞こえるのは、圭志の愛液がとめどなく溢れている証拠だ。  赤黒く充血し、血管を浮き立たせた太い楔がギリギリまで引き抜かれると、虚無感を恐れた蕾がきつく食い締めて離さない。力が入ったままの入口を無理やり押し広げながら一気に最奥まで突き込んでやると、圭志は震えながら愛らしい声を上げて啼いた。  医師にはもう使えないと宣告された器官。しかし、仁はなぜか奇跡が起こりそうな予感を抱いていた。  その根拠はどこにもない。でも、圭志の心の傷が癒え、体も仁を素直に受け入れることが出来た時、その器官のゲートが開かれるような気がした。  自分を愛し守ってくれる伴侶と出会うまで、ただ長い眠りについていただけの場所。  その鍵を開けられるのは自分しかいないという自信があった。 「圭志……。もっと俺を求めて……」  荒い息を繰り返しながら、白い背中に何度も囁きかける。  愉悦に掠れる低い声が圭志の鼓膜を震わせ、またさらに上の快楽へと導いていく。  いつ果てるとも分からない快感の連鎖。そして、疑心暗鬼に囚われていた自身の心が居心地のいい場所へと誘われる。  二人の激しい息遣いと喘ぎ声が幾重にも重なり、薄闇に散らばりながら冷えた空気を熱く甘いものへと変えていく。  汗ばむ額に張り付いた髪をかきあげながら仁は一心不乱に腰を振り続けた。それに応えるように彼の楔を喰い締める圭志。  仁が眉間に深い皺を刻み、低く呻いた。 「――ヤバい。イキそう……だっ」  熱く心地よい蠢動に誘われ、絶頂の時が近づいていた。圭志もまた、何度かの射精を伴わない絶頂を迎え、そろそろ体の中で渦巻いている熱が出口を求めて暴れ出しているのが分かった。  仁の動きに合わせて腰をグラインドさせ、自分のいい場所に硬い楔を押し当てる。腰の奥の方がジン……と甘く痺れ、痛みとも圧迫感とも違った曖昧な酩酊状態に陥っていく。  視界が霞む。それはもう眼鏡がないせいだとも涙のせいだとも言えなくなっていた。 「あっ、あっ……。仁……ダメ、俺も……で、ちゃ……う。また、イッちゃ……う」 「俺もイキそう……。圭志のココ……俺の精子で……抉じ開けて、あげる……からっ」 「はぁ、はぁ……っ。熱いの……欲しい……っ。でも……仁、ごめん。俺、お前の希望に応えられ……ない、かもっ」 「大丈夫! 俺の……精子、強いから。それより俺の愛の方が何倍も……強い――あぁ、イク、イク……イクッ!――っぐあぁぁぁっ」 「――っひぃ! あぁぁぁぁぁぁっ」  圭志の最奥で灼熱の楔が盛大に弾けた。閉ざされた入口を激しく叩きつけた奔流が渇いた大地に潤いを広げるようにジワリジワリと繊細な襞に浸み込んでいく。  下腹部にわずかな痛みと熱さを感じつつも、射精と共にブラックアウトした意識はなかなか戻っては来なかった。  背を弓なりに反らせたまま痙攣し、仁の長い射精が終わった時、その体は力なくシーツの海に沈んだ。 大量の精液を圭志の中に注ぎ込んだにもかかわらず、仁のペニスは衰えることがなかった。  しっかりとした硬度を保ったままゆるゆると腰を動かし、残滓まですべてを中に注ぎ終えると、意識を失ったままの圭志からゆっくりと引き抜いた。  ぽっかりと開いた蕾から濃厚な白濁が圭志の腿を濡らした。  Ωの発情期は通常であれば一週間ほど続く。しかし、強力な抑制剤で押し留めていた発情を一気に解放した圭志がどうなってしまうのか誰も予想できなかった。  それは圭志自身にも分からない。  でも、互いの想いが通じ合い、体を重ねた今、仁は仕事を投げ出しても彼の傍にいたかった。  長い睫毛が涙に濡れ、きつく閉じられたままの瞼にそっとキスを落とす。  互いに汗ばんだ肌を重ね、寄り添って眠ることにこの上ない幸福感を感じていた。  このまま時が止まればいい……。そう願いたくなるほど、圭志の寝顔は穏やかで美しかった。 「圭志……」  露わになった襟足に唇を寄せ、そっと口を開いて躊躇う。  αがΩの首筋を咬むことで伴侶としての証を残す。それを躊躇ったのは、まだ傷が癒えない彼を追い詰める様な事をしたくないと思ったからだ。  抑制剤が切れ、望まない発情の上に雰囲気に流されて体を重ねただけだと彼が思うのであれば、仁の咬み痕はただの枷にしかならない。  長年の苦悩の上にさらに苦痛を上書きすることになる。望まない支配、望まない愛情、望まないセックス……。  これ以上、彼を苦しめないと決めた仁の意志に反する行為だ。  穏やかな寝息を立てる彼の首筋に触れるだけのキスをして、仁は後ろから抱きしめるとそのまま目を閉じた。  自分を守るための辛辣な言葉、人に嘘を見破られないために感情を表に出さない彼。   でも――その背中は温かかった。 「――絶対に離さないから」  甘くほろ苦いチョコレートの香りを肺一杯に吸い込みながら、仁は深い眠りについた。

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