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第7話

「すると、この先には、弱い魔物が一匹いるだけなのか」 「ああ、その他にはなんの反応もない」 「こっちが当たり、ってことか……」 俺たち二人は、話し合いながら、歩を進めた。 洞穴は道に入っていくらかしてから、人一人なら歩いて通れるという狭さになったが、そこからある程度進めばまた、4人並んでも余裕な広さになった。 それを含めても、こちらが当たりなのだろう。 と、いうことはあちらは……。そう考えていると、黒い男から爆弾が落とされた。 「ただ」 一呼吸置いて、続く言葉。 「闇の力が通じにくい感触がする」 闇の力が通じにくい、というのは…… 「魔物の話か?」 「そうだ」 魔物に、闇の力が通じにくい。 「でも弱いんだろう?」 「ああ」 「じゃあ、大丈夫じゃないか?」 「そうだといいのだが」 ? なんだ? 歯切れが悪い。 「そいつ以外には、いないんだよな。どれぐらいで接敵だ」 凶王は、この先の道行きが、全部判ると言っていた。そして、そこまでにいるのは一匹だけで、しかも弱い。 闇の力が通じにくい、というが、凶王は化け物と言われるほどの魔法の力を持っている。 そのすべてが闇の魔力だからと言って、弱い魔物一匹が敵うとは思えない。 ならば、さっさと倒せばいい。魔法が通じないなら、一応剣もある。 「……そうだな、あともうしばらく行けば、開けた場所に出る。そこにいる」 黒い男は、一瞬迷う素振りを見せたが、そのまま案内を続けた。 本当に、しばらくだった。 開けた場所の、少し高くなった所に、その魔物はいた。 「んー……あれは、クリーパーか?」 そいつは、細い蔓を伸ばして、相手の足止めをしたり、引っかけたり、弾いたりする、植物型の魔物だった。 森にいるなら、ややうざったい魔物だが、こんな洞穴に一匹だけ、しかも俺の肘から先よりも高さが足りない、そんな小ささでいるのだから、火をつけて焼き払えば終わるだろう。 「なんだ。本当に弱いヤツみたいだな。闇の魔法で火はつけられるのか?」 「ああ。少し下がってくれ」 黒い男は軽く腕を上げると、俺を下がらせる。その声の、ざらつきが強くなったような気がしたのが気にかかった。 腕を振り抜くと、火が、クリーパーに向かって飛んでいった……って、あれ、火ってレベルじゃないな。炎だな。 ただのちっぽけな植物魔物には、過剰なほどの攻撃が、周囲を襲った。 はたして。 焦げあとだけが残っているはずの、その場所には、変わらない姿の植物があった。 「……は?」 「……っ! 伏せろ!」 その結果にあ然とする俺を、黒いものが突き飛ばした。 一瞬目を伏せ、そして開いたその時に見えたのは、黒い男が、蔦に絡められて、その植物の方に引き摺られて行くところだった。 「……っ、凶王?」 「……に……げろ」 脳の裏側を、柔らかく引っ掻くようなその声は、ぐんぐん成長して黒く変色していく、植物の魔物の中に飲み込まれていった。 俺は、そこに茫然と、へたりこんだ。

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