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第10話 ※

「なっ……どうし……ッ!」 た、と言えただろうか。 声をあげた彼の方に、反射的に体を傾けようとして、けれども俺は動けない。 赤黒い触手の束が、ぬるぬると動き出す。 それに合わせるように彼は、触手に捕らえられたまま、短く息を、声を上げ始めた。 「んッ…はぁ……」 ぐちゅぐちゅという音が響く。 蠢く触手同士の擦れあう音かもしれない。だが。 「…ッぁあ……は、はァ…」 瞳を潤めて、密かに声を上げる彼を見ていると、別の音だとしか思えなかった。 数刻前には不快感で引っ掻かれていた場所を、得も言われぬ快感が撫でる。 「ん……はふ…ぁ……!」 耳朶を粘着質な音が叩く。 本来不快なはずのそれを、現に数分前までは嫌でならなかった音を、俺の脳は快感として伝えた。 彼の息づかいと共に。 「ッッ!!」 下半身の違和感に、そちらを見てみると、キツくなったズボンを持ち上げるものに気がついた。 「待て……ウソだろ?」 信じられなかった。 潤んだ恩人の瞳を見て、勃つなんて。 逃げろと言い、今も苦悶に耐えるその声に、息を荒らげ興奮するなんて。 「嘘だ、こんな」 「あっ! はぁ……ああ…ッ」 否定の言葉を、快感で塗り替えられる。 そう、脳の裏側を逆撫でするこの声は、まさに快感だ。 ゾクゾクと首すじを通り抜けるそれは、俺に性への渇望を掻き立てる。 「や…やめ……」 「はぁ…はぁ…はぁ」 制止の言葉は、聞き届けられない。 ぬらぬらと光る、醜く赤黒い触手の絡まりの間から、天使のように美しい白い肉体が、ゆっくりと現れ始めた。 胸部が全て露わになり、ピンク色の乳首が露わになり、引き締まった腹部が露になる。 下腹部が露になると、そこに現れたものに、天使本人も、羞恥を覚えたようで、美しい金と紫の瞳を伏せた。 「…ッ……でかい……」 俺のものに比べて、未だ純真な色のそれは、俺のものよりも大きく、そして力強く上を向いていた。 「ふ……はぅ……ああ……」 涙目で頬を赤らめた様子は、まるで俺に視姦されて恥じらっているように見えた。 「…ッ…ぅ……はぁ」 てらてらと濡れそぼるソレに、細い触手が絡まる。 「ふあっ、あっ あっ……はぁぅ」 根元を包み、そしてカリ首までをゆっくりと上下する様子に、俺は我慢でき 「…ッ! …ダメだっ!」 股間にやってしまった手を、必死で(とど)める。刺激するのではなく、抑え込むためだけに、その手を使った。 「つっ! …っぅッ……くぅッ…!!」 ダメだダメだダメだ。 必死に抑え込む。 あれは尊敬すべき人で、自分を助けようとしてくれた恩人だ。 いくら艶っぽいからって、こんな目で見てはいけない……。 そんな風に思いながら、 息が上がるのを止められずにいた。

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