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第20話

  ラルドの身の上話を聞くと、生まれた瞬間から、彼の姿は歪んでいたらしい。 そして、さらに恐ろしいほどの魔力をすでに発していた。 その魔力に当てられたのか、母親はまもなく息絶え、父親はあまりのおぞましさに、その子を捨てた。 「けれども、死ななかった。魔力が強すぎて、半分、不老不死になっていたから」 やがて、隠れ住んでいた、闇の魔力を持つものたちに拾われて、育てられたそう。 闇の魔力を持つものの肩身は狭い。 大多数は、生まれてすぐに死んでしまうが、生き残っても育ってから精神を病むものがほとんど。病んで犯罪を犯すものも少なくない。 故に、闇の魔法使いは忌避されてしまう。 彼が拾われたのは、そんな闇の魔力を持つものたちの生き残りが、行き着いた隠れ里だったのだ。 「光の魔力を一定以上持つと、狂わない。これは闇の魔法使いたちが調べあげた事実」 そして、光の魔力の1.5倍以上、闇の魔力を持つと、姿が歪む。両方を持つものは、悲惨だ。狂うこともできずに、一生を歪んだ姿で過ごすことになる。 「……はずなんだけど、奇跡がおきたね」 あはは、と軽く笑うラルドに、顔をしかめた。 つまり、ラルドは、今はじめて、自分の手足の白さを知ったのだ。 青黒く、本来曲がるはずのない方向に捻れた手足が、これまでの彼の『普通』だった。 「……不便だったんじゃ」 今さら、そう思う。けれども、彼は首を横に振った。 生まれてからずっとそうだから、不便とか便利とかいう感覚が他人とは違うようだと。 そういえばそうか、と納得したところ、 「かえって、今の方が不便。ちぐはぐに動くんだもの。『運動』でだいぶん慣れたけれど、まだ歩くのは難しいかな」 などと言われた。 「歩けない?」 「魔法で補助すれば行けるけど、できれば温存したいから」 そう、あっけらかんと言い放つ彼は、明るく、吹っ切れたような、清々しい表情をしていた。 ここに誰かを呼んで、『凶王』だと紹介しても、決して誰も信じないだろう。 ふと、思った。 「このまま、ずっとあの姿に戻らない、なんてことは」 首をゆるゆると横に振られる。 「闇の魔力が戻れば、もと通り」 「そう……か」 俺は顔を歪めて、落ち込んだ。すると、ラルドは言う。 「それは、人間らしい姿じゃないと、こんなことはできないでしょうし、残念だけれど」 「違う」 即座に否定した、俺の声にラルドはキョトンとした。 「違う、って、何が?」 「たぶん、俺はあの姿のラルドでも、勃つよ」 はっきり言おう。たぶん、俺はあの姿のラルドも愛せる。滅茶滅茶に喘がせて、耳元で愛を囁き、共に眠る。 うん、余裕でできる。むしろ、もはや我慢できるだろうか? 「……」 呆然とする、彼に語りかけた。 「俺が、あなたに惚れた場所は、一番は瞳で、これはあの姿から変わりがない。次には、その優しさや思いやりで、その次が教養ある話や立ち振舞いなんだ。どれも、あの姿の時でも変わりないんだよ」 けれども、あの姿に戻ったラルドは、きっと俺とは一緒にいられない。 彼は『凶王』として、どこかに閉じ込められて、王族に使われるのだ。 「俺はラルド、あなた自身を好きになってしまったんだ。そこは、わかっていてくれ」 真剣に見つめると、戸惑っていた彼が、こくん、と顔を赤らめ頷いてくれたので、ホッとする。 「……落ち込んでたのは、あの姿に戻ったら、確実に引き離されると分かるからだよ。その姿なら、別人だと言い張ることもできるのに、って。……そういう、勝手な考えだから……」 言い切って、情けなくなってきた。俺はただの一般兵だ。世界最強の魔導師を好きになって、自分だけのものにしたいなんて、傲がましいにも程があるだろう。 そばにいたいだけ、なんてキレイにまとめた所で、身のほど知らずの願いなことに変わりがない。 やっかいな恋をしたな、と頭を抱えた。

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