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第19話

説明回です。長いです。 ――――――――――――――――――――――――――――――   一夜明け。 寝る間さえ惜しんだ、一日目は何だったのか。 俺たちはまだ、デス・テンタクルを倒した、あの広場にいた。 「……腰がいてぇ」 行為の激しさか、いや、たぶん岩場と言っていいような場所で寝たせいだろう、腰が痛む。 「……大丈夫、ですか?」 まだ眠っている、と思っていたラルドから声がかかる。寝ぼけ眼が色っぽい。 「大丈夫。そっちこそ、痛むところはない?」 「ん……大丈夫……」 寝そべった姿から、起き上がろうとして、顔を歪める様子に、大丈夫、というのは気休めと気づいてあわてて手を差し出そうとする。 だが、ラルドは俺の手を遮って、自分自身の手を胸にあてた。 「≪光よ 我を癒せ≫」 あてた手のひらから、柔らかな光が溢れ、彼自身を包むと、体に吸い込まれるように消えた。 それを目を丸くして見る。 凶王の力は、『闇の魔力』のみではなかったか。 癒しの力は、光の専売と言っていい。 炎や水にも、癒しの魔法は存在するらしいが、光の魔法より効果が数段落ちる。 炎や水による癒しの魔法は、光による「軽い手当て」に及ぶか及ばないか、それぐらいの効果しかない。 ましてや闇だ。光とは相反する力だ。闇の魔力を持つものは、光の魔力は持てないと言われている。故に、闇の魔力を持つものは、治癒魔法は不得手だとされる。 その、闇の使い手が、癒しの魔法を使う衝撃。 固まっている間に、ラルドは宝玉の瞳をこちらに向けると、俺の腕と腰に手をあてた。 「≪光よ ()を癒せ≫」 俺の体が、暖かな光に包まれる。ふわりと纏わりついた光は、染み入るように体の中に入り込むと、俺の感じていた痛みと重みを消し去った。 「……っ! すげぇ」 明らかに、炎や水の癒しではない効力。 なぜ、という目で、彼を見る。 ラルドは、まだ痛いところはあるか、と聞いた。ゆるりと首を振る。 「これ……光の魔法だよな」 「そうですね」 「ラルド、は、凶王なんだよな?」 「ええ」 「……凶王は、闇の魔力のみを持つんだろう?」 そこの問いかけで、ラルドは軽く首をかしげ、苦笑した。 「少し、違いますね。私は光と闇の両方の力を持ちます」 また、俺は固まることになる。 はっきり言おう。俺は、魔法にそこまで詳しいわけではない。魔法使いじゃないからな。 だから、俺がこれまで、ああだこうだ、と言ったことは、この世界での一般常識に毛が生えた程度のものだ。 特に、『光と闇の両方の魔力を持つことはできない』と『凶王は闇の魔力のみを持つ』は、知らない人間の方がおかしい、ぐらいの常識だ。 それをひっくり返すラルドの言葉。 彼が凶王で、しかも今、光の魔法を使ったのだから、この程度の驚きですんでいる。 普通なら、世迷言を言うな、失笑、だ。 その上でラルドは、さらに常識外れを口にした。 「光か闇の魔力を持つものは、実は必ず、光と闇、両方の魔力を持っています。そうでないと、正気を保つことができませんから」 一時の間のあと、乾いた笑いが出た。 それは、あまりにも、常識はずれだ。 どれぐらい常識はずれなのかというと、空が地上にあり、大地が天にあると言われたぐらいの衝撃だ。 だれもが恐れおののく化け物が、とんでもない美人に化けたのより、はるかに非現実的である。 なぜか。 「なぁ、ならなんで、光と闇の両方の魔法を使えるやつがいない?」 そう。光と闇の両方の魔力を持っているというなら、両方の魔法を使えるはずだ。 現に、水と火とか、風と土とか、異なる複数の魔力を持つものは、まぁいる。3つもっていりというものもいなくはない。 そういうやつらは両方の魔法を使えて、かつ同時に発動させることもできる。 両方の魔力を持つなら、両方の魔法を使えるはずなのだ。 なのに。 ラルドは、ふるふるとゆっくり首を振った。 「光と闇は同時には使えません。それどころか、どちらか片方、多く魔力を持つ方しか、顕現しないんです」 そう、言って俯いた。 「なん……」 目を見張り、固まる俺に、さらに言葉を紡ぐ。 「私の場合は、光の魔力も、まぁ常人よりかなり多いんですが、闇の魔力がその倍以上ありましてね。普通、闇の魔力がこれだけあると精神が安定しなくて狂うはずなんです。けれど、私の場合は内側ではなく、外側。姿が歪むことで精神を保つことができました。……まぁ、姿が歪んでいくことでも、普通の感覚なら発狂しそうなものなんですが、光の魔力があったことでそれも叶わなくてね」 ものすごく重い話のはずなのに、照れたように頬を掻くから、かわいいという感情で上書きされてしまう。 ええとまとめると、彼以外の光や闇の魔力を持つものでも、みんな両方持っているもので、だけど、光か闇のどちらか、たくさんある方しか使えないから、光の魔法を使える人は、闇は使えなくて、闇の魔法を使える人は、光が使えない、そんな仕組みになっている、と。 で、彼の場合は、光も闇も多いけど、闇が多すぎて姿が歪むほどだった。けれども光の魔力のおかげで狂うことがなかった、と。 なるほど。整頓してやっと理解した。納得は出来ていないが。 それと、また疑問がひとつ。   「え。でも、今、光の魔法が使えてたのは?」 闇の魔法使いのはずの人が、どうして? 「デス・テンタクルに、闇の魔力だけを吸いとられたので、一時的に光の魔力が闇の魔力をかなり上回ってるんです」 「ああ、なるほど。期間限定で光の魔法使いになってるのか」 光と闇、どちらか魔力の多い方だけが使えるなら、そうなるのか。 全部繋がった。なるほど。 「そのうち闇の魔力が上回ったら、また姿が歪むでしょうから、この姿でいる間は、光の魔法使いってことになりますかね。ちゃんと人らしい姿してますか?」 ラルドはそう言って、自分の体を眺めながら、悲しそうに笑った。 「え。ラルド……その姿になったのって、どれぐらいぶり?」 もしかして、長く歪んだ姿でいすぎて、もとの姿を忘れていたのだろうか。 だが、彼の口からでたのは、予想もせぬ答えだった。 「うまれてはじめて」 「ふぇ!?」 どうやら、まだ俺は固まったまま動けそうにない。

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