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第22話
「これが使えたら……あ。」
ラルドが、何もない空間に、腕を軽く振り上げると、黒い穴のようなものが出現した。
そこに、恐る恐る手を入れた彼が、黒い布のようなものを引っ張り出した。
「……出来た」
「おおお! それ何」
唖然と布を掴んだままの、ラルドに近づき、声をかけるが、彼は軽く首を振った。
「闇魔法のひとつ。闇の空間に、ものを収納しておける。これは、私のローブ。」
ぼんやりした声で、ラルドが説明してくれる。
「おお、便利だな。荷物は持たなくてもいいわけだ」
すごいな。やっぱり魔法は便利だ。
しかも、攻撃的で忌避される闇魔法に、そんなものがあるなんて。まぁ、闇の魔法使いに、じっくり話を聞く機会なんてないしな、と、そこまで考えて、はたとする。
待て。
闇魔法?
「待って。ラルド。ちょっと質問」
「うん」
「闇の魔法使いも光の魔法使いも、闇と光、両方を持ってる」
「うん」
「でも、両方を使えないのは、魔力が多い、どちらかしか使うことができないからだ」
「うん、そう」
「今、ラルドは限定的に、光の魔法使いになっている」
「そうです」
そこまで話した上で聞く。
「闇魔法使えるのおかしくない?」
「おかしい」
ラルドは肯定した。即答だ。
え? いやいやいや、おかしい!
「え? 光と闇の両方を使うことはできない、って言ってたよな?」
「言った。今まで、どんな光の魔法使いも、闇の魔法使いも、両方を使うこともできなかった」
「じゃあ」
「限定的に、反対の属性の魔法を使うのだって、けっこう裏技的なものなんです。光の魔法使いだと、大概、闇より光が減ると、気を失うものだから」
ラルドの目を、理智が支配している。黒いローブを引き寄せたまま、独り言のようにいう。
「私は、何度かしたことがあるけれど、魔力が回復するのも早いから、そこまで長くはない……そもそも、姿が変わるほど、魔力を吸いとられたのは初めてです。その辺りの条件が……いや、しかし……」
ぶつぶつと思考の中に入ってしまった、ラルドの横から手を出し、乳首を弾く。
「ぅひゃあんっ」
「悪い。俺は頭が弱いから、さっぱりわからん。わからんがつまり、今、ラルドは光と闇、どっちの魔法が使えるんだ?」
少し頬を染めた彼が、恨みがましい表情でこちらを向いた。
そして、己に問いかけるように、目を軽く閉じ俯いた。
「両方、です」
「おかしいな?」
「ええ、おかしいです。けれど」
「けど、好都合だ」
遮るように重ねた言葉に、ラルドが弾かれたように、顔をあげた。それに対して、歯が出るように、にやりと笑う。
「なんだか分からないが、俺たちにとって、都合のいいことが起きた。そうだろう?」
目を丸くしたラルドは、呟くように答えた。
「ええ……ええ、そうです」
その肩を持って、こちらを向かせ、頷く。
「原因究明はあとだ。これから、俺たちが一緒にいられるように、できることは?」
ラルドの宝玉の瞳に、決意が点り、その口唇に笑みが浮いた。
「……まずは服、ですね。少し待っていてください。この闇の空間は、闇の魔力を持つものなら、入ることが出来るんです。でなければ、生物は入ることができませんが」
そう言って立つと、ローブを羽織る。そして穴の中に入り、しばらくしてから、戻ってきた。
その手には、軍服と靴があった。
「砦の倉庫から、拝借してきました。たぶんサイズはこれだと思ったのですが、違えばまた、取りに行ってきます」
「瞬間移動能力とか、持ってたのか」
受け取りながら、驚いていると、ラルドは人差し指を口元にやって、可愛く笑った。
「裏技ですけどね」
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