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第26話(※傷注意)

※ 怪我などの描写があります。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 宣言通り、一日半後。 道の先から足音と人の声が聞こえた。 慌てて道へ続く入り口へと駆け寄ると、斥候役らしき男と目が合い、同時に「もうすぐだ!」「がんばれ!」などという掛け声が聞こえる。 「先についたのか」 斥候役に聞かれ、現場説明をする。 一日半前に着いたこと。道に罠や枝道はなく、魔物が出現。『凶王』が排除したこと。『凶王』はおとなしく歩き、ここについてからは、ずっと、扉の前に佇んでいること。 広場には特に危険はなく、片側には澄んだ地下水で満たされた泉があるということ。 伝えたところで、金色の光が見えた。 近衛騎士の鎧の装飾と、王子の髪の色だ。 「やっと着いたか……ん? その男は?」 疲れた表情の王子は、俺を見て、首をかしげた。 慌てて斥候役が、凶王を見張っていた者です、と口添えしている。どうやら、俺のことはすっかり忘れていたらしい。 ああ、と言って、広場を覗き込む王子に、安全確保はできていることを伝える。 「まぁ、その程度は当然やっているか」 興味無さそうに呟いた王子の目は、『凶王』を睨んでいた。 そんなことより、気になるのはあちらだ。今も、近衛騎士の一人が伺い見る道の先。 付き従っていただろう、兵たちの足音や声が、まだ遠い。 どうやら、王子たちは、休息をとれる広場があるらしいとみるや、荷や負傷者を運ぶ兵士を置いて、先に進んできたらしい。 近衛騎士たちは、『凶王』が脇にもたれ掛かりながら見上げている扉にも、泉にもある程度近い場所に、魔法の鞄で運んできた簡易的な休憩セットを展開していく。 あれに、全員分の食糧や、重いもの、嵩張るものを入れられればいいのに、と見ていると、道の先を見ていた近衛騎士に話しかけられた。 「こちらの道では、罠により道が寸断された。その際、多数の死傷者が出たんだ。一日使って手当てや埋葬をしたので、王子の機嫌が悪い。『凶王』との戦いは危ういが、なんとしても成功させねばならない」 その目は、何かを堪える色をしていた。 ……そういえば、6人いたはずの近衛騎士が、彼を合わせて4人になっている。いつも王子は3人だけを周りにつけていたので、気にならなかった。後の兵たちのところにいるんだろうか、それとも。 「……凶王に疲労は見えません」 残念ながら、という言葉は言わずに、悼みを込めた表情で返す。 顔をしかめた騎士は、それでも、と言った。 「お前も生き残りたいだろう」 え、という言は、石を転がる音と、大声に消された。 「よし! 広場が見えたぞ! みんな、あと一息だ!!」 男たちの「応!」と、いう雄叫に身を震わせ、見れば、先程よりも大きくなった足音と共に、兵たちが角を曲がってくるのが見えた。 やってきた兵たちの半数以上が、血の滲んだ包帯を巻いている。そうでない人も大半はどこかしらに、傷跡が見えた。 その光景に目を見開いて、広場を見た。 王子は、扉を睨んだまま、椅子に座ってお茶を飲んでいる。 「――ッッ!!」 俺は、広場の中で、泉に近く、平らな場所を案内すると、水筒や水袋を回収して、中身を入れ換える役を引き受けた。中身はほとんど空だった。 自身も頭に包帯を巻き付けた衛生兵に、指示をあおぎながら手当てを必死に手伝った。 火を起こし、出来る限りの布をかき集めて敷き、入り口に置いたままの荷物から、必要なものを取りに行く。手当てのために使う水も、何度も何度も汲みに行った。 腕や足をなくしている人もいれば、顔や目に大怪我を負っている人もいる。五体無事な人も、すっかりヘトヘトだった。 俺が一番元気で、一番気力に満ちている。 だから、一番に走りまわった。 汗だくで、俺が駆け回っている間に、扉の前では、事態が進行していた。  

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