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第28話(※別視点)
※ 引き続き、凶王・ラルド 視点です。
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「なんだこれは」
中を見た王子が固まっているので、何事だろうと見てみると、扉の向こうに広がっていたのは、思いもよらぬ光景でした。
美しくアーチを重ねられた天井。
精緻な意匠の灯籠が下げられ、落ち着いた柔らかな光を放っている内装。これまでの道や広場のような、ダンジョンならではの、洞窟の中がうっすらわかる程度の明かりを放つ、光ゴケとは違います。
5~6人が並べる幅の、通路が真っ直ぐと作られていて、突き当たりには、天使の描かれたステンドグラス。
そして、その足元から両脇にかけて……部屋の中には、びっしりと棚が組まれ、古びた書籍がその中を埋め尽くしていました。
そう、そこは、ダンジョンではなく、あきらかに一室、しかも、書庫の様相をしていたのです。
「本? なんだ? ここはダンジョンじゃないのか!?」
憤る王子が、手近な本棚にかじりつき、明らかに貴重だと、遠目にもわかる古本を、引っ張り出し、そこらに投げ飛ばし始めました。
……本好きとしては赦しがたい。
闇の魔力を混ぜ込んだ、灼熱の業火で焼き尽くしてやりたい。
だが、動かない。動けないのです。
なぜなら今、私は『凶王』なのですから。
『凶王』に付けられた足枷は、『あの男』の血を引く者が近くにいると、装着者を無気力にするものです。
頭に靄がかかり、何もかもが、どうでもよくなる。
今も私は足枷と鎖がついたまま、と思わせなければならないのですから、この蹴り落としてやりたい衝動は我慢しなければ。
しかし、そう考えると、本当に周りが見えていなかったのだなぁ、と思います。
思い浮かぶのは、この道中のこと。
この王子 が、側から離れるなと言いつけられた『凶王』を気持ち悪……気味悪がって、たった一人の兵を見張りに、単独行動させてくれたのがきっかけです。
そう思うと、彼は恩人なのでしょうか?
その見張り兵に、ガイリを選んでくれたのも、彼ですね。なんということでしょう。礼を言わねばならないかもしれません。
恩人と思って見れば、貴重な財宝 に折り目やシワを作り続ける彼も、唯の我が儘な金色のおサルさんに見えてきました。
人間のルールや価値観が、通じないだけですからね。そう見れば、その行動も愛らしいものです。
飼い主、躾しろと思わなくもないですが。
まぁ、飼い主もサルなので、仕方ないですがね。
しかし、ガイリを選んでくれたのは、本当に僥倖でした。
まさか、闇の魔力への忌避感に逆らって、私の話を聞いてくれる人がいるとは、思いませんでした。
しかも、彼は先入観なく、自らの良心に従って動く人です。本当にこの国には珍しい。この国では、兵は上位のものに絶対服従で、間違っていると思っても意見することさえ許されず、従わされますから。上の意見になにも考えず、ハイハイと従うものが地位を得るのです。
別の国であれば、きっともっと、高い地位を得ているでしょうに。いえ、それで良かったのかも。彼が下級兵士だからこそ、私は二人きりになる機会を得たのですから。
彼にとっては可哀想なことですが……そんな想像をしながら、私は王子が近衛騎士に宥められていくのを眺めていました。
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