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第29話

主人公視点に戻ります。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 集めた石で作られた竈の上に、水を入れた鍋を並べていく。 火に風を送る役も、交代しようかと申し出たが、断られた。少し休んで、次に備えてくれと言われては、遠慮もできない。 額の汗をぬぐうと、ポンと肩を叩かれた。 「よォ、ガイリ。おつかれ」 「カール! 無事で良かった」 後ろにいたのは、悪友のカール・オーラプライスだった。 出発前から会っていなかったが、なかなかに…… 「ボロボロだな」 「はは。だが、五体満足だ」 確かに、カールの服や顔は泥だらけで切れ目が入っているが、傷などは見えない。 こいつの部隊は、第五。前線で戦うことも多い部隊だ。 回りを見渡せば、無事な人間は第五所属者が多い。一番酷い傷も、第五の人だが。てか、第五の班長だよな。よく生きてるよな、あれ。 「てか、無事で良かった、っていうセリフはこっちのだよ。ホントよく無事だったな」 「ハハハ……まあな」 ごまかすように笑う。なにせ、一番無事なのは俺だ。 『凶王』は魔物を倒しながら、ゆらゆらと進んでいくだけで、追いかけるだけで良かったと言えば、ホッとされた。 「『悪いことをすると凶王に喰われる』って言われてたけどな」 「俺は悪いことはしていない、と判断されたんだろ」 「お前がした『悪いこと』をずらっと並べてやろうか」 「やめろ」 応酬を返しているが、こいつの方が、よっぽど悪いからな……まぁ、喰われないだろうけど。 てか、俺ある意味喰われたな。ガッツリ心までやられたわ。 そう思って扉の方を見れば……。 「あ? あれ、いつの間に開けたんだ!?」 「は?」 丸一日以上、閉まっているのを見続けていた、デカイ扉が開け放たれていた。 「あンの王子め……! 開けるなら、こっちにも言えよ! 魔物が溢れてきたら、どうする気だったんだ」 悪友の言に、俺は冷や汗をかきながら同意する。 ダンジョンでは、時々、魔物が詰まった部屋が存在し、中に入ると、四方八方から襲われることもある他、扉を開けたとたん、溢れるように魔物が出現することもある。ダンジョンでの、よくある罠の一つだ。 こちらに寝ている人を見る。その数は、10人近い。怪我をして座り込んでいる人を合わせると、動いている人間より多い。 もしここに、魔物が溢れたら。 背すじが、凍った。 「……道中の様子を思えば、何にも考えてねーことは明白だけどな」 そう、ため息をつくカールの声を置いて、前に進んだ。 おい、と呼び掛ける声がする。が、扉に進んでいく。 その腕を横から捕まれた。 「早まるな」 そう言って腕を掴んでいたのは、近衛騎士の一人だった。 俺が、斥候役と話していたときに、入り口にいた彼だ。 心配を目に浮かべて、掴む力を強めている。 その力にふ、と息をついて、大丈夫だ、と言った。 「中の様子を覗いてくる。危険がないか」 この近衛騎士の側には、第五班の班長がいる。どうやら、この彼の恩師で、罠で死んだ近衛騎士の恩師でもあるらしい。その騎士がかばって、命は助かったようだが、頭を打って意識がないのだ。 彼は、ここから動いていなかった。中の様子を確かめる役をする人間はまだいない。 「ならば俺が」 「いや、動けるならあっちを手伝ってくれよ」 足りない包帯を、怪我で動けないが、腕は動かせる連中で作っている。 この近衛騎士も、実は右腕に、酷いやけどがあるのだが、動かないわけではないし。 顔をそちらに向けた瞬間を狙って、脱け出した。 あ、という声が聞こえる。だがもう、俺はそちらよりも、扉に近い場所にいる。 すると、中が見えてきた。 「なんだこれ……」 扉の中は、部屋だった。  

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