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第36話
なんだこれ。
俺の印象はそれだ。
そこに出るまでに、綿密な打ち合わせをした。
まずは、光魔法による治癒で信用を得る。
『凶王』について聞かれたら、これだ。俺が今持っている古代の壺。これにかけられた呪いで、封印されてしまったと伝えるのだ。
現在のラルドの設定は、これに策で閉じ込められていた200年前の光魔導士。『凶王』が封印されるのに変わって、解放されたのだ。
この設定のために、わざわざ200年前のローブを用意したとか言っていた。服なんて初めて着ると、嬉しそうにしていたのは、別の話。
これだけ設定を詰めたのに!
図書室の扉前に出てきたラルドを迎えた、男たちの目は、恍惚としていた。
天使か女神が降臨したかのようだった。
治療もすんなりさせてもらえ、やって見せると尊敬の眼差しを向けられ。
突然、扉を触りたいと言っても、疑いの目もなくすんなり通され、開けてみせれば大歓声。
引き続き、傷の手当てをし続ければ、涙を流される始末。
平静なふりをしているが、ラルドも物凄く動揺しているのが、手に取るようにわかる。
……わからなくもないけど。
神秘的な銀髪の、とんでもない美形が、白を基調にした、深い青に金の縁取りなんていう、高貴さ満載の衣装でやって来て、まさに今必要とされていた治療をしてくれると言ったら。
ああ、崇めるね。間違いないね。
あれ? これ、俺、忘れられてるんじゃね?
茫然と経過を見ていると、ある男がやっとこちらに気がついた。
「ヨォ、悪友 。無事で良かった」
「ヨォ、悪友 。やっと気がついたか」
手をあげて爽やかに近づいてくる男を睨めつける。
無駄に爽やかなのが、気にさわる。何様だ。
「どこ行ってたんだよ、見たか? 天使様だよ」
「光魔導士だとか、自己紹介してただろ。俺は、凶王の見張りしてたんだよ」
「ちょ! 何気に危ないことしてたんだな。え? その凶王は?」
待ってました。
「この中」
壺を示す。
「は?」
「なんか、奥にあったこの壺を、ヤツが触り出してさ、しばらく睨んでたと思ったら、ヤツ、吸い込まれていったんだよ」
「は? いやいや、何言ってるかわからん」
カールは、目を点にして、首を横に振った。
「俺だってわかんねぇよ。あったそのまま言ってるんだからな。そしたら代わりに、あんな美人が出てくるし、現実逃避しかなくね?」
俺が返すと、今度は首を傾ける。
「え、あの人、壺から出てきたの? ますますどういうことだよ」
「あの人が言うには、呪いの壺なんだってさ。ここに書いてある、ナントカ語? を読むと、読んだ人を中に吸い込むんだと。出てくるには、別の誰かが、代わりに吸い込まれてくるのを待たなきゃならんらしい」
「うっわ。嫌なトラップだな。読めないけど」
「うん。そもそも何語なのかも覚えられなかった」
この、カールめ。聞き上手すぎる。
設定全部、網羅できたぞ。
さて……信じてくれるだろうか?
「ふぅん……それで、あの天使が出てきて、代わりに凶王がこの中に」
「そういうことだ」
「最高か」
「まぁ、結果的には?」
なんとか、信じてくれたようだ。さすが友だ、ありがたい。俺だったら信じない。
「でも、こんな壺、何でここに? そもそもダンジョンじゃねーのか?」
「似たような壺が、あっちには飾ってあったけど。ダンジョンなら、どっか隠し通路でもあるのかな?」
「探すか?」
「探すか。待って、これ、誰かに預けなきゃ」
さて、信用できそうな人に、壺を預けねば。
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