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第37話

見回して、どちらも見つけた。 斥候役をしていた男と、近衛騎士の男。 ある程度話したことのある相手のほうが、預けやすいと、そう踏んだのだが、斥候役の男はやめた。 ラルドをめちゃめちゃ憧憬の目で見ている。いっそのこと、崇拝しそう。 悪いな、俺、そいつの上から下まで、すでに蹂躙済みだから。 なので、近衛騎士の男に近づく。 ヤツは、こちらに背を向け、未だに第一隊長を見たままだった。 「あの……」 「うん? ああ、どうした」 いく分、表情が柔らかい。付き物が落ちたようだ。 見れば眠ったままの隊長の表情も、穏やかで赤みが差している。 ラルドが治療したんだろう。 「これなんですが」 意を決して、壺を差し出す。これは? と聞かれたので、カールに説明したよりも、丁寧に、かつ無駄を省いて分かりやすく伝えた。 先にカールに話したから、何を伝えるべきか考えやすく、また、フォローもしてもらえて助かった。 近衛騎士は、震える手を壺に伸ばしてくる。 「これに……凶王が。……本当に、凶王を封印できたのか」 「完全に偶然ですがね」 騎士は、驚愕に染まる眼を、グッと閉じた。 「目的は奇しくも成されたわけか。だが……」 そして、伸ばされた平手を拳に変えると、そのまま握りこんでしまう。 壺は、受け取ってくれない。 「もはや、我々は見捨てられたのだ。今さら、これを手にしたところで……」 「いや、この部屋の探索を改めてするので、その間預かってほしいだけなんですが……」 やっばい、この騎士、真面目すぎる。 再度、壺を受け取ってくれるよう促したら、自分には受ける資格がない、とか言い出した。うわぁ……。 「よければ俺が」 そう言って手をあげたのは、斥候役をしていた男だった。 さっきまでの、妙な崇拝の目でラルドを見ていた面影はない。 「じゃあ、お願いします。さて、カール、どっちから行く?」 壺を渡し、万が一にも割ってしまう危険がなくなったので、探索を開始する。 奥のステンドグラスの下から順に、壺があったと伝えた、ラルドと過ごした側へ。後片付けはきちんとしたし、匂いはラルドがなんとかしたから大丈夫。 ラルド、何でもできるよな。俺、一緒に逃げたら、ヒモになる未来が見えるんだが。不安になってきた。 小部屋の奥に飾り棚があり、そこに何個かの壺や美術品が置いてある。そのうちひとつの棚が空いていて、ここにあれが置いてあった、という感じだ。 「すげーな。俺には価値がわからんが、これ一個でも、とんでもねぇ値段がつくだろうことがわかるぞ」 そう言いながら、装飾品には触らず、あたりを確認する。特に抜け道は見つからない。 「なぁ、思ったんだが、反対側も、似たような美術品が並んでるのかな?」 反対側の小部屋には、王子たち一行が行った。 顔を見合わせ、慌てて向かうと、荒らされた本の合間に、割れた陶器が見える小部屋に出た。 「……俺、あの王子が心配になってきたわ。呪われてるんじゃないか?」 折れた本を、いくつか拾って、道を確保しながらカールは言った。 カール、採用。 後で、凶王(ラルド)に伝えとこう。 結局、抜け道などは見つからなかった。 正確に言おう。 と分かっていた抜け道を、第三者にもないと確認させることができた。 これで、ここから、心置きなく出ることができる。  

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