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第39話※

―――― 気がつくと、俺の腕には触手が絡まっていた。 「……え?」 見れば全裸で、足にも、赤黒い触手が巻きついている。 「なんで。俺は……」 そこで、前を向くと、 「俺……たちは……」 『凶王』がいた。 白い肌と、美しい青銀髪の、ラルドの姿ではなく。 青黒くねじれた四肢と、醜く歪んだ顔面の、恐ろしい姿をした凶王が、目の前で、触手に捕まっていた。 なぜ。 俺たちは、ここから抜け出したはずだろう。 グジュ、グジュ…… 大きく足を広げられた、彼の胎内(なか)に、出入りし続ける触手の音が、耳に響く。 彼はもう、疲れきってしまったのか、反応が鈍い。 変わりきったこの姿でも、変わらないその宝玉の瞳でさえ濁っている。 ぐじゅ、くちゅ…… 響く音に、これまでにあった交わりのすべてを思い出す。 重ねた口唇、絡み合う舌、紡がれる言葉。 躍動する胸、背に流れる汗、朱く染まる体。 抱き締めたい、想いの代わりに、激しく動く腰。 その、ナカの感触。 「ラ……ラルド……」 声をかけると、気だるげに首を巡らせる。 視線が合うと、眉を潜めて、ゆるく首を振った。 知ってる。これは…… ――…逃げて……っ 声が、甦る(きこえる)。 そして再生されるのは、最中ではなく、その前。 道中での、理知と威厳と優しさに満ちた、その言動。 俺が、彼を尊敬し、信頼と憧憬を懐いた、その大元の記憶。 そして。 同時によみがえる、忌まわしい記憶。 尊じ、敬い、信頼を寄せる恩人である人物の喘声に、その目線に、愚息を屹立させる、俺。 そう、今と同じように。 恥じ入り、視線を下げた俺の目の前に、あの時と同じようにそそり勃つ、剛直が見えた。 しかもそれは、今、全裸になっている俺には、見間違えだと思うすべも塞がれている。 苦しみながらも、こちらに思いやる目線を向けてくれるたびに、俺自身は興奮し、想いを膨らませた。 なんて、あさましい。 己のモノを殴り付けてやりたい衝動を押さえ、上を向くと、いつの間にか、俺は初めての時と同じように、凶王の上に被せられていた。 目の前にあるのは、人にあらざるほどの、まるで枯れ木のような青黒く捩れた肌。左右に違う目の大きさ、片側だけ捲れ上がった唇。 けして本来なら、欲情などありえない景色。 だが、俺の剛直には、ますます血が溜まっていく。 「ラルド……」 「……ガイリ」 ああ、俺はこの人が愛おしい。 ままならない両腕を置いて、その唇にキスをする。 優しく、柔らかく、啄むように。 下半身の触手が動く気配、と共に、俺のモノが握り込まれた。 知らず、湧く汗に、目を見ると、潤んだ宝玉の瞳に、わずかな光が点っている。 息を飲むと同時、先端を熱いもので被われた。 「ッ……ガイリっ、ぁッ!」 後ろから押され、一気にナカを進む感触に、口唇を離せば、彼の口から、耐えきれないような喘声が溢れた。 ああ。ラルドのナカだ。 何度経験しても、気持ちいい。 たった一度の挿入で、俺の理性は吹っ飛んだ。 「あッ…あっ、や…ッ……だっ…ッ っあ、……ん、あ……あぁ、あッ」 ギリギリまで抜いて、一気に突き入れるのを繰り返す。 はじめの時は、触手に促され、無理矢理だった行為を、自らの意思で繰り返す。 「や…ッ…中っ……ぁ、中が、…っ奥、擦れ……ッッ、中っ…ああッ」 凶王(ラルド)は、声をあげながらも、俺を咥え込み離さない。軽い絶頂に、ナカを痙攣させながら、貪欲に精を搾り取ろうと熱くうねっている。 相変わらず……なんてイヤラしいカラダなんだろう。 「ふあ……ふわぁあ…ッ…ヤだ、やッ……あっああッあぁ……!!」 絡みつく柔肉を、激しく掻き回して、かき乱して、貫き捏ねて、しつこいぐらい何度も何度も、愛を送り込む。 ラルドだって、熱い肉壁で俺を刺激し続けている……たぶん無意識で。頭を振り乱して、涙を撒き散らしながら。 「ラルド……好きだ」 その、純粋な宝玉の瞳を見ながら、愛を告げてキスをする。 深く、深く、想いが伝わるように。 かつ、深く穿ち、一番奥に白濁を注ぎ込む。 舌を絡めながら放つのが、すっかり気に入ってしまった。ラルドもよく感じてくれる……。 ……え……。 薄目の向こうに、信じがたい光景が見えた。 凶王(ラルド)の向こう側の触手が、枯れていく。 それはいい。 彼の腕が解放されていくにつれ、その肌が、白く瑞々しくなっていく。 唇を離したとき、その顔は、素顔のラルドになっていた。 輝くようなサラサラの青銀髪。 金と紫の、宝石のような瞳。 瑞々しく透き通るような白い肌。 細いがしっかり筋肉のついた、整った体。 天使を具現化すれば、こうなるんだろう。そういうものが、そこにはいた。 うん。まぁ、それもいい。 けれども、俺の腕が、足が。 触手から解放されないのは、なんでだろう。 ラルドは笑った。 美しく妖艶に。そして、未だに繋がれたままの俺の腰に手を回し、頬に軽く触れるだけのキスをした。 なぜか、ゾッとする。 まるで知らないものが、そこにいるような。 確かに、ここにいるのはラルドなのに。 不安になって、見上げれば、彼は優しく、悲しい目を俺に向けた。 「ええ、そう。私を愛して」 そう言って、笑うラルドの美しい顔。 「そうすればあなたを利用して、凶王(わたし)は逃げられる」 そう、俺を見下すように嘲笑(わら)った彼は、凶王の姿よりも、よほど醜かった。  

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