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第40話

飛び起きた俺の息は荒く、心臓は痛いほど波打って、体は汗でびっしょり濡れていた。 あたりは静まり返っていて、余計に自分の音が煩かった。 隣には、寝袋にくるまって、大口を開けた悪友(カール)。こいつ、これでほとんど鼾はかかないんだよな。 周囲には、元怪我人や、ずっと看病に明け暮れていたヤツが、毛布や寝袋の中で、寝息をたてている。 明かりは落とされ、入り口付近にぼんやりと、不寝番の灯りだけが点っている。 入り口の、門のところにいたのは、驚いた顔をしたラルドだった。 ドクン、と心臓の音が響く。 夢の中の、歪んだ顔が、脳裏から離れない。 もし、もしも。 あの夢の通りに、酷薄な凶王が、俺を利用して、枷から逃げ出そうとしているだけだとしたら。 「だい……丈夫ですか……?」 あの心配そうな表情は、演技なのか……? 立ちあがり、ゆっくりとこちらに近づいてくる彼の、手元には光魔法の柔らかい灯り。 その向こうには、こちらを除き込む、兵の姿。もう一人、不寝番がいたのか。 心臓が、ドクンと跳ねる。 何だろう、なんの話をしていたのだろう。 今、俺が起きるまで、ラルドはあいつと二人きりだった。 また、独占欲が吹き出て、自分の思考に呆れてしまう。 俺は、彼を信用しないくせに、怖がっているくせに、独り占めしようとしているのか。 なんて矛盾している。 俯き、薄く自嘲しているうちに、白い影が、すぐそばまでたどり着き、膝を折った。 「大丈夫ですか? ガイリ……」 密かなその声は、目一杯心配を孕んでいて、目線をあげれば、その宝玉の瞳にも、気遣いと心配ばかりが溢れていた。 これが、演技なのか。本当に? 「うなされていて、気にはなっていたのですが……ごめんなさい。そばに来れば良かった……」 情けない顔をした男が、ラルドの瞳に映る。 見ていられず、目を逸らすと、もう一人の不寝番が、またさらに誰かに話しかけているようだった。 二人きり、ではなかったらしい。 ほぅ、と息をつく、自分が本当に情けない。 あんな悪夢を見て、不信感に動揺して、勝手に嫉妬して。 一人で歪んだ感情にとらわれて、苦しんで、まだこちらにいる(ふりかもしれない)彼に安心して、勝手に責めて。 「ラルド……好きだ」 醜いのは俺だ。 「はい……私も愛しています」 すぐに返答は帰ってくる。頬を赤らめて微笑みながら、幸せそうな表情で、ラルドは腕を広げた。 「もうすぐ、ですから。だから、それからは、ずっと一緒にいましょうね」 俺を抱き締める彼に、違う、そうじゃない、と言う心と、ありがとう、と言う心を発生させて、また勝手に憤る。 ああ、この人は綺麗だ。 なのに俺は。 自分がどんどん醜く情けない生き物になっていくことに、何よりも一番腹が立った。

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