41 / 54
第40話
飛び起きた俺の息は荒く、心臓は痛いほど波打って、体は汗でびっしょり濡れていた。
あたりは静まり返っていて、余計に自分の音が煩かった。
隣には、寝袋にくるまって、大口を開けた悪友 。こいつ、これでほとんど鼾はかかないんだよな。
周囲には、元怪我人や、ずっと看病に明け暮れていたヤツが、毛布や寝袋の中で、寝息をたてている。
明かりは落とされ、入り口付近にぼんやりと、不寝番の灯りだけが点っている。
入り口の、門のところにいたのは、驚いた顔をしたラルドだった。
ドクン、と心臓の音が響く。
夢の中の、歪んだ顔が、脳裏から離れない。
もし、もしも。
あの夢の通りに、酷薄な凶王が、俺を利用して、枷から逃げ出そうとしているだけだとしたら。
「だい……丈夫ですか……?」
あの心配そうな表情は、演技なのか……?
立ちあがり、ゆっくりとこちらに近づいてくる彼の、手元には光魔法の柔らかい灯り。
その向こうには、こちらを除き込む、兵の姿。もう一人、不寝番がいたのか。
心臓が、ドクンと跳ねる。
何だろう、なんの話をしていたのだろう。
今、俺が起きるまで、ラルドはあいつと二人きりだった。
また、独占欲が吹き出て、自分の思考に呆れてしまう。
俺は、彼を信用しないくせに、怖がっているくせに、独り占めしようとしているのか。
なんて矛盾している。
俯き、薄く自嘲しているうちに、白い影が、すぐそばまでたどり着き、膝を折った。
「大丈夫ですか? ガイリ……」
密かなその声は、目一杯心配を孕んでいて、目線をあげれば、その宝玉の瞳にも、気遣いと心配ばかりが溢れていた。
これが、演技なのか。本当に?
「うなされていて、気にはなっていたのですが……ごめんなさい。そばに来れば良かった……」
情けない顔をした男が、ラルドの瞳に映る。
見ていられず、目を逸らすと、もう一人の不寝番が、またさらに誰かに話しかけているようだった。
二人きり、ではなかったらしい。
ほぅ、と息をつく、自分が本当に情けない。
あんな悪夢を見て、不信感に動揺して、勝手に嫉妬して。
一人で歪んだ感情にとらわれて、苦しんで、まだこちらにいる(ふりかもしれない)彼に安心して、勝手に責めて。
「ラルド……好きだ」
醜いのは俺だ。
「はい……私も愛しています」
すぐに返答は帰ってくる。頬を赤らめて微笑みながら、幸せそうな表情で、ラルドは腕を広げた。
「もうすぐ、ですから。だから、それからは、ずっと一緒にいましょうね」
俺を抱き締める彼に、違う、そうじゃない、と言う心と、ありがとう、と言う心を発生させて、また勝手に憤る。
ああ、この人は綺麗だ。
なのに俺は。
自分がどんどん醜く情けない生き物になっていくことに、何よりも一番腹が立った。
ともだちにシェアしよう!