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第42話

強い言葉に、目を見開く。 王子が、殺した? ――だが、驚きは少ない。実際に、あそこに昨日殺されかけた人間がいる。いや、それ以前にもあったのは、驚きだが。 発言した男の証言は続く。 「なぁ、死んだ4人のうち3人は、斥候役をやらされたヤツばかりじゃないか。その役は、誰が選んだ。王子だろう?」 ギリ……ッ、という音が、複数聞こえた。 何があった。 「そこの、十九隊の隊長さんが立候補するまで、怪我人の中から王子が選び続けたじゃないか。そして……」 「やめろ!」 「凶悪な罠にかかって死んだ」 制止をしたのは誰だったろうか。だが、それを振りきって、その男の言葉は言い切られた。 静寂。 そこにあったのは、悲しみと憤りと怒り。 その男の言葉を否定するものはなかった。 「もう一人は、足のひどい怪我を圧して歩いていたんだったよな……周りの治療を優先して。それで、あの谷で足を滑らせた。なぁ、第三隊長さんは、素晴らしい人だったよなぁ……」 ……ッ!! 第三隊長と言えば、この王国軍の、軍医の一人だ。第三軍の専属医と言っていい。兵である俺たちよりよほどいい体格をした、豪快な人だ。 いないから、緊急のためにあちらの広場に残ったのだと思っていた。 自分より、周りの患者を優先して……というのは、あの医者(せんせい)らしい。 口は悪いが、いつも周りの心配ばかりしていた。 急に、人が、本当に死んだのだ、という実感が込み上げてきた。 第三軍は、予備隊だ。他の軍の補助に呼ばれることが多く、前線で戦った経験は、一桁台の隊しかないだろう。 つまり、俺は、知り合いがいつの間にか死んだ、という経験ばかりで。すぐそこで死んだのだと言われるのは、初めてだった。 つまり、死の実感が少ない場所にいた。 今もだ。この中には、医者(せんせい)が、滑り落ちた、すぐそばにいた人もいるんだろう。 ついに、泣き始めた人間も出始めた。 重い空気。 悼む空気の中に、さらに強くなった、憤りと怒りが見えるようだ。 その中で、ラルドと目を合わせる。 俺たち二人だけが感じる空気がある。疎外感だ。 俺たちは、罠の中を進んではいない。 進んだのは、快楽の中。 いたたまれない。 いたたまれない。 俺は何をしていたんだろう。 膝を掻き抱いた。 「違う……」 静寂を開いたのは、第三副隊長だった。 「あの人は、王子に殺されてなどいない」 この人は、ずっと第三隊長(せんせい)の助手をしていた人だ。 誰より、あの人を知っていたのだから、誰より恨みは深いのでは? 「だが!」 「他の三人は、否定しない」 涙に濡れる男の言葉に返す言葉は、冷静だった。 「あの人は、信念に死んだんだ。それは、否定しないでくれ」 その言葉に、全員が納得した。 それより、と続く。 「あれをどうするか、決めるべきだ」 示されたのは、『凶王』が封じ込められた壷だった。

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