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第43話

右側の道を、ゆっくり進んでいる。 結局、壷は扉の中に置いていくことになった。 ラルドがもし、『凶王』というものが、闇の魔道士だと言うならば、と提案したからだ。 「あの扉は、外からは闇と光、両方の力が必要ですが、中からは光の魔力だけで開きます。その王子がここに閉じ込めようとした、というのは、とても賢い選択でしたね」 もし、何らかの方法で『凶王』が壷から抜け出しても、部屋から出られないだろう、と。 「あとは、外に出て、洞窟ごと封印すればいい、か。確かにな」 誰が、なぜ、どうやって、この洞窟を作ったのか、は後回しとなった。『ラルド』が二百年前の人間だと(いう設定が)わかったからだ。 その時、この洞窟のあった場所は、我が国の領土ではなかった。件の王の頃に、滅ぼされた国のあった場所だ。学のない俺は知らなかったが、貴族位を持つ人たちは気づいて、ここでは調べようがないと結論付けた。 あとは、全員無事に、外に出るだけだ。 「シュメルダ様を中心に。隊列を組んで進むぞ。先頭はギブスに任せる」 ギブスというのは、斥候役の男のことだ。 シュメルダは、ラルドのことだな。 道中の指揮は、第五の隊長がとることになったようだ。脇に、第三副隊長と、第九隊長がつく。 「エイリ。君も先頭で、道案内をしてくれないか」 この道中を通ったのは、今、俺一人ということになっている。 頷いて、斥候役の男(ギブス)の隣へ行った。 ……おかげで、ラルドからは遠い。 道中に話す機会はなさそうだ なんだか、モヤモヤごちゃごちゃしたものを抱えたまま、先頭を進む。 こちらの道に、罠はない。 弛い高低と、たまにある強い段差、最初の方……こちらからは最後か。そこに、狭くて一人ずつしか通れない場所があるぐらいで、本来、案内さえいらないぐらいだ。 唯一の罠、というか危険だった、デス・テンタクルは、討伐済。 今回は、その広場で一泊することになるだろう。 そう、広場で。 一瞬で、触手の中で、ぐちゃぐちゃに交ざりあった衝動を、甦らせる。 荒い息遣い。 熱いからだ。口唇。絡めあう舌。 疑問と悲愴と後悔と憐憫と、思慕と快楽とを混ぜ合わせた瞳で、こちらを見つめる、尊敬すべきひと。 そして、その瞳に写る快楽の割合が、どんどん増えていく。 ただ、そばに行きたいという衝動のためだけに、体を動かしただけで。 そして、その衝動が甦える。 彼がそばにいないのに。 切ない衝動に苦しんでいると、隣から「大丈夫か?」と心配される。 「大丈夫だ。すまない」 俺が、ただ薄汚いだけで。 この苦しみの理由を言えば、そんな誠実な思いやりのこもった目では、見られないだろう。 うん。単に、盛ってるだけだから。 ……なんかそう考えると、俺自身も、少し落ち着いた。 落ち着いて、少し、後ろを見る。 ラルドは近くにいる誰かに、柔らかな笑顔を向けていた。 ちくり、と心が痛んで、前を向いた。 ――ああ、うん。 ――俺が汚いだけなんだ。 たった一人、俺だけが苦しいような気がして、涙が出そうだった。 行軍は、ラルドの癒しの魔法のおかげで、順調だ。 この分なら、予定よりも早くに、あの苦しみのもとである広場に着くだろう。 ――俺は、この表現が、俺だけのものになるだろうと思っていた。 そうじゃなくなるなんて、予想できるはずもない。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 次回、酷い流血、人死、残酷表現があります。  

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