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第44話(※流血表現注意)
※
流血、人死、残酷非道な表現があります。
覚悟をもってお進みください。
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もうすぐ、広場に着くだろう、その時、足が止まった。
苦しみのためか、そう思ったけれど、止まったのは俺だけじゃなかった。
それよりも一歩先に、斥候役のギブスの足が止まっていた。
その顔は、かなりしかめっ面だ。
怪訝に思う、同時に、俺の眉間にも皺ができた。
嫌な臭気が流れてくる。
俺の知らない臭いだ。
けれども、知っている臭いだ。
知らないのに知っているのは、あれだ。
つい先日に、傷の手当てを手伝ったからだ。
だが、あのときの臭いには、薬の臭いが混ざっていた。
これには、混ざっていない。
それに、ただの傷なんかより、ずっと強い臭気で、さっきまでなにも感じなかったのが、嘘みたいだった。足がすくむ。
ギブスは後ろに止まれ、の合図を送ると、俺に目配せした。
良くわからないまま頷くと、ギブスは頷き返して、その場を離れる。
後ろに、異変を報告しに行ったのだ。
俺は、ますます強くなる血の臭いに、動けないまま、ただ広場の方向をうかがった。
何があった。
「大量の血の臭いが……」
「魔力の気配も……」
「戦闘中である様子ではない……」
高められた緊張感が、俺の耳に、後方の話し合いを届ける。
ややあって、慎重に、前進することとなった。
罠のないはずの道に、大量の血の臭い。
異変のもとを確かめなければ。
第一、ここにしか道はないんだ。
戻ってきた、ギブスと二人、慎重に歩を進める。
「……!!」
そこに広がる、思いもよらない光景。
「嘘だ……」
惨劇は、広場に。
「……っ! 下がれ……ッッ」
密かな叫び声と共に服を引っ張られ、広場の様子が見える位置から下がる。
そして、振り向いて確認する、ラルドの姿。
彼は、兵たちの合間から、こちらを怪訝そうに見ていた。
その姿は、白く美しい。
違う、と思った。
心臓が飛び出そうだった。
ギブスだってそうだろう。俺とはきっと意味が違うだろうけど。
「なぁ」
ギブスが聞いてくる。
「凶王は、間違いなく、あの壺に入ったんだよな……?」
「ああ」
俺は、ラルドを見据えたまま、頭を上下した。
間違いなく、凶王は封印されている。
「じゃあ、あれは、なんだ?」
これには、口をつぐむしかなかった。
俺にだって、訳がわからない。
凶王 は確かに、そこにいる。
けれど、広場には。
倒れた鎧は、赤く染まっていた。
あの白い鎧は、近衛騎士のものだ。
原形はなんとか保ってはいるが、微動だにせず、転々と転がっている。
そこから、強い臭気が溢れているのだと、すぐにわかった。
問題はその先。
ただひとつ、人影があったのだ。
その惨劇に、茫然と佇んでいるように、人影があったのだ。
ほんの少し、ゆらついているように見えるその人影は、見覚えのある服装と、見覚えのある肌の色をしていた。
ただ、組み合わせがおかしい。
服装は、かなり汚れているが、あの王子の物に似ていた。
だが、肌は、青黒かった。
良く見れば捩れて、あられもない方に曲がって見えた。
俯いた顔は良く見えない。
髪の色は金で、けれどひどく短い。
ただ、その顔も青黒く、妙な皺があるようだった。
そう、見覚えがある。
あれは。
「なんで封印されているはずの凶王が、あそこにいるんだ……!」
見間違えようもない。
恐怖の権化。忌むべき存在。
俺のいとおしい『凶王』の姿だった。
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