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第45話
「本当に凶王なのか!?」
広場から、後退して緊急会議が開かれた。
「あれを見間違えるもんか」
第十九隊長、ギブスが言う。
「青黒い肌の、捩れた手足の、醜い男だ。黒いローブを着ていなくても、間違いないだろう?」
間違いなく、凶王以外にはない特徴だと、誰もが思った。
「凶王は、間違えなく封印されたんだろうな!?」
「見たのは、ウォガリス・エイリ、ただ一人だ」
その指摘に、その場にいた全員が、俺を見る。勢い良く、俯いていた顔をあげ、捲し立てた。
「嘘じゃない。封印された。じゃなきゃ、彼はいないんだ」
ラルドを指す。嘘じゃない。
凶王 は確かにここにいるんだ。あれはあの凶王じゃない。
「じゃあ、なんでいる!」
「やばいぞ、アイツがあそこにいたら」
「道は、ここしか無いんだ」
立て続けの怒号に、怯む。その誰もが青褪めている。
もう一本の道は、埋まっている。
ここを抜けなければ、どこにもいけない。手詰まりだ。
沈黙が降りた。
「……私も、確認していいですか?」
重さを破った声は、軽く手を上げた、ラルドのものだった。
「シュメルダ様?」
「私は、その凶王というものが、闇の魔導士だということしか知りません。存在を、確認しても、いいですか……?」
その言葉に、心配と困惑が広がるが、明確な反対の声がでない。
いや、その前に、俺が手をあげた。
「俺が、先導します」
さっきまで、行った場所だから、と。
ギブスも申し出てくれたが、慎重に慎重を重ねるから、と言って遠慮してもらった。
なにか責任を感じているように見えたのだろう。俺が行くこと自体には、反対がなかった。
背に心配の目を受けながら、ラルドと二人、道を進む。
広場の人影は、まだその場に佇んでいた。
「……どう見ても、凶王だ」
「闇の力を持つひとの姿、ですね」
ラルドに訂正された。やはり本人が見れば別人らしい。
「あれは王子でしょう」
衝撃的だが、予想はしていた指摘を受ける。
「やはり、そうなのか」
俯き、動揺を隠す俺に、淡々としたラルド。
「王子の闇の力は、元に戻っていっていましたから。この場で、狂ったのでしょうね」
「狂った?」
その言葉に、振り返る。
「一気に闇の力に飲まれたでしょうから。狂わずにいられるほどの光の力もないし、不死にもなっていない。彼は、本来、生まれてすぐに死ぬはずの命を今まで繋げていたに過ぎないのですよ」
「そんな……」
死ぬはずの命。そう言われて、ますます動揺する。
ムカツク存在だが、確かに生きた人間だ。
簡単に割りきれない。
「『凶王 』を封印する。それは、彼らがこうなるのと同義でした。他ならぬ彼が成したのです。自業自得、ですよ。……最低限、私は覚悟していましたから」
血の気が引く思いだった。
俺が、彼を手にいれる。
それが王族を自滅させるのと、同義だったと言われて。
青褪めない庶民がいるだろうか。
「幻滅しましたか?」
ラルドが聞いてくる。少し悲しそうに笑んで。
試されている、そう感じた。
「いや」
すぐに首を振った。
「幻滅するとしたら、考えの及ばない俺自身にだし」
それに。
「覚悟、とは違うけど、たぶんもう俺、あなたから離れられないような気がする」
それは覚悟じゃない。確信だ。
俺は、ラルドから離れられないだろう。
恐くても、信じられなくても、どうしても求めてしまう。そんな予感がする。
ラルドは俺の言葉に、ほんの少し目を見開いて、ポツンと呟いた。
「そうですか」
その頬が赤らんで見えるのは、俺の願望ではなさそうで、少し胸がほころんだ。
しばらく、人影の同行を見たあと、二人、後方の兵たちの元に戻った。
作戦を、立てなければならない。
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