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第46話
「勝算はあります」
その言葉に、その場の全員が目を剥いた。
だが、誰も言葉を発しない。発することもできないほど、唖然としている。
故に、ラルドは続けた。
「あの頑丈な封印から、どうやって抜けることができたのかは、わかりません。私たちをどうやって追い抜いたのかも。ですが、わかったことがひとつ」
誰かが、喉を鳴らした。視線はラルド。
「あれは、弱っています」
俺は、少し離れた場所から見ていた。
ラルドを囲むように、隊長たちがいる。
広場から少し距離をとった道の、岩場のような場所で、隊長を中心とした緊急会議が開かれていた。
その隊長たちが、そろって唖然と口を開いている。
「……弱って、いる……凶王が」
「はい。強い闇の魔力を感じますが、これだけの大の男たちを、震え上がらせるほどとは感じませんでした。と、すると、あの封印から抜け出すのに、ほとんどの力を使ったのではないでしょうか?」
怯むことなく、憶測を口にするラルド。
堂々としていて、その言葉は嘘とは思えない。
「何らかの方法で、ここまでやって来て、近衛たちと戦闘になり、勝ったものの、残りの力さえ使い果たした。今は力の回復のために、あの場を動けないのだと思われます」
広場の闇の力を持つ男は、しばらく見ていても、そこから動かなかった。
それは、ギブスも確認している。
「と、すると、時間が経つ方が良くありません……」
ラルドが、思考するように、口元に指をあてた。
「だな、凶王の回復力は驚異的だと聞く」
「どちらにしても、あの場所にいられては、俺たちは閉じ込められたままだ」
「先に行かれるのも困る! あっちには軍の残りが……!」
場は紛糾し、けれども戦闘へと進んでいく。
誰の目にも、それは仕方のない選択と映った。
「よし、一か八か。戦闘準備だ。凶王を、叩く」
「武器防具に、光の加護を付与します。貸してください」
ラルドが一つ一つに付与魔法をかけて、頑丈にしていく。
俺の短剣にも、ラルドは力を込めた。
え、付与師以外に、三重以上の付与ってかけられたっけ? これ、明らかに光の加護だけでも頑強だけでもないんだけど。オッケー、史上最強の魔導士様だった。問題ない。てか、コレ、俺のだけだ。こっそり贔屓しやがった。バレたらどうする気だありがとう。俺頑張る。
「闇の魔力に対向するのに、光の加護ほど効果的で力強いものはない。感謝する」
第五隊長が声をかけ、場は整った。
「みんな、相手は『凶王』だ。油断はすべきではないが、尻込みする必要もない。我々のすべきは、近衛騎士たちの、後始末だ」
第五隊長は、その場の兵たちを見回す。
「彼らは戦い、『凶王』の力を削いでくれた。我々は、その最後の力を、払い落とす。それだけを考えろ」
そして、たった一人、ここにいる近衛騎士に向き合う。
「エド。いや、騎士エドアルド・サパテル殿。力をお貸しください」
「もちろんです。彼らの弔いにもなる。力を尽くします」
近衛騎士は、真っ直ぐな瞳で言いきった。
「シュメルダ様」
「もちろん私も、微力を尽くします」
美しい青銀の髪を揺らして、青年が穏やかに笑う。
準備は整った。
これから、ここにいる29人で、『凶王 』を倒す。
広場に向かう足に、意外なことに重さはなかった。
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