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第47話(※流血表現注意)
※
戦闘による、流血、人死、残酷な表現があります。
覚悟をもってお進みください。
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広場では、その人影はまだ、その場に揺らいでいるだけだった。
その目線はどこを見ているのか、わからない。
先ほど編成し直された部隊ごとに別れ、作戦通りに動く。
「散開!」
すなわち、囲いこんで、袋叩きにする。
この中で、王子に対する恨みが、最も少ない俺たちだけが、彼を王子だと知っているなんて皮肉だ。
薄汚れた服が、王子のものだと、誰もが気づいているだろうに、指摘しないのが不思議だが、俺はただ、役目をこなすことだけを考えることにした。
そう。
俺は、この広場に飛び出す入り口から、最も遠い場所に回り込む部隊に振り分けられた。
つまり、今やっているのは、猛ダッシュ。
囲い込むために、最も重要で、早さの必要な場所。
ラルドを助けるために、デス・テンタクルを回り込んだのが、思い出される。
結局、配置場所に着いたのは、俺が一番で、その間、闇の魔導士 は動かなかった。
ちらりと見れば、もう片側の入り口には、ラルドと、悪友 たち。
忘れかけていたが、アイツらこの中でも、一番の実力者だった。
出てきた入り口には、第五隊長をはじめ、近衛騎士もいる。
広場と言えども、洞窟の中。
最初や図書室前ほどの、広大な空間ではない。30人もの人が集まれば、猫一匹逃がす間もなくなる。
ゆらゆらと揺れていた、闇の魔導士の動きが止まった。
「かかれっ!」
号令と共に駆け出す。
狙うのは、目。
凶王 とは違う、その青い瞳を、狙った短剣は空振りだった。
だが、それでいい。
「ァアアアァァァアアッッ!!」
共に駆け出した、十人足らずが、次々と襲いかかる。
そのうちの何人かが、その体をとらえ、傷を負わせた。
人のものとは思えない、叫び声が辺りに響く。
俺は、反す刃で、その背中を狙う。
「グァアアアアアァァッッ!?」
見事ど真ん中に突き刺さり、抜いて、その場を下がった。他の襲撃者は皆、すでに下がっている。
闇の魔導士の足下が、真っ赤に染まっていた。
「光よ、我に力を」
「≪光よ、我が敵を灼け≫」
二つの詠唱が、別の場所から聞こえる。
光の加護を与えられた剣が輝き、近衛騎士が飛び出す。強い光を目に宿した彼は、まるで英雄を体現したようだった。
それより前に、ラルドの魔法が、闇の魔導士の腕を灼 いた。
「グァァアアアァァァアアッッ!!」
両腕を失った闇の魔導士がバランスを崩す。
そこに近衛騎士が襲いかかり。
「はぁあああああッッ!!」
その光輝く剣は、青黒く醜い首を、切り落とした。
続く誰かがその胴を凪ぎ、続く誰かが、足を落とす。
「≪光よ、我が敵を灼け≫」
最終的に、もう一度、ラルドが魔法を発動し、その体は跡形もなく焼かれた。
残ったのは、醜い首だけだった。
静寂。
のち、怒濤の喚声。
『凶王』という化け物を倒した英雄たちが、上げる歓声の中、俺は涙を流していた。
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