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第51話

亡くなってしまったものは、仕方ない。 その場の全員で、左右の道に黙祷を捧げると、第三軍の駐営基地を中継して、王城に帰還することとなった。 第三王子の栄誉の戦死は、王城に衝撃を与えた。 しかし、それはさらに王子の名を高める結果となる。 なぜなら、王たちの死は、『凶王』の呪いではないか、という説が推されていたからだ。 時間系列でみれば、 ○王子が洞窟の探索のために、一時的に凶王から離れる。 ↓ ○王族が倒れはじめる。 ↓ ○凶王を封印するも、逃げられる。 ↓ ○王族の最後の犠牲者が出る。 ↓ ○王子が命を懸けて凶王を止め、後に英雄が仕留める。 となるため、王たちの仇を王子がとったと、解釈されたのだ。 第三王子・アット=ヨーハン・テングストレームは、『光輝の王子』として、王国に永久に語られることになる。 真実を知るのは、『王子に助け出され、英雄と共に凶王を討った、光の大魔導士』ヴァルデマル・ラルド・シュメルダと、俺、のみである。  ― * ― 「面を上げよ」 英雄の凱旋と騒がれた、翌日。 昨夜は、豪勢な料理が振る舞われ、飲めや歌えの大騒ぎだった。……夜通しだったおかげで、ラルドと二人きりになる機会が、全くなかったが。 俺たち第三軍の奇数班は、玉座のある謁見の間に、集まっている。 暫定的に、王位を継いだ第二王子が玉座に座っていた。反対する者もいないため、おそらく、このまま彼が王となる。暫定なのは、単に、まだ即位の儀式をしていないからにすぎない。 その次期王に、跪いている俺たち第三軍、奇数班一同は、許しを得て、一斉に顔を上げる。 第三軍奇数班、と言っても、先頭にいるのは、近衛騎士、エドアルド・サパテルで、 その後ろには、軍隊長、ボドイット・オスカリウスと第五班長、ロビン・グルーコックの他、我らが光の大魔導士、ヴァルデマル・ラルド・シュメルダが並んでいる。 つまり、代表4人のうち、半分が、第三軍所属ではない。 そんな状態なので、俺たち自身は『第三軍奇数班』だと思っていても、相手は『英雄一同』だと思っていそうだ。 その相手である、王国の中枢を担う、いわゆるお偉いさんの面々は、口々に英雄を讃え、その功績を美辞麗句で持って飾り立てた。 最後に、次期王が口を開き、再度英雄の功績を讃えると、褒美に何がほしいかと聞いた。 英雄であるサパテルは、深く傅くと、 「では、王国に末永く、忠誠を誓うことをお許しください」 などと、真面目に答えた。 第三軍軍隊長オスカリウスは、 「我らが第三軍の隊員たち全てに、報奨を戴けますよう、お願い申し上げる」 と言い、第五班長グルーコックが同じくと続いた。 こうなると、注目は我らが光の大魔導士様に行く。 何なりと遠慮なく、と言われるが、ここまで3人の流れが来ている。 「王国に支えたい」等と言うのが、セオリーだろうが、さて。 面を上げたラルドが、さて、と首を捻った。 「私は、他国の人間です。その上家族はもう無く、一族でさえも忘却の彼方となりました」 そう前置きをして、全く物怖じもしないまま続ける。 「王国を見たのは、ここ4日ほど。会う方皆親切で、素晴らしいところだと思います。ですが、やはり、客人であろうからというものが否めず、私では見極めがつきません」 その場の何人かが、眉を潜めた。 第三軍奇数班所属者の大半は、何を言うんだと、汗を浮かべる。 「故に、ひとつ、願いを聞いてくださるというのなら」 つい、と、ラルドは周囲に目を配らせた。 「彼を、私に戴きたい」 ニッコリと笑って、指した先にいるのは、俺。 「「「は?」」」 疑問符を浮かべる、その場の一同(+俺)に対し、ラルドはご機嫌でニコニコと笑みを撒き散らしていた。  

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