5 / 12

第5話

◆◆◆◆◆◆ あの昼休みの時に話して1週間、彼の姿を見なかった。 花壇にいても、図書室に行っても彼は居なくて、自分が見ないだけかな?それとも病気かな?なんて、考えていた。 もっと、仲良くなっていたら、どうして学校で見ないのか聞けたのに。 あんなに楽しみだった図書室へ行くのにも何だか行きたくなくて、サボろうかな?なんてまで思ってしまう。 そして、次の週の月曜日。 日課になってしまった花の水やりをしていたトオルだが、引っ張ってきたホースから水が出ない。 あれ?何か詰まってる?ってシャワーの先をのぞき込んだ瞬間、コントのように水が勢い良く出てきた。 あ〜〜、もう!!なんだよコレ!! 顔もだけど、制服が濡れてしまって、ポケットにあるはずのハンカチを探す。 「それじゃあ、間に合わないんじゃない?」 聞き覚えのある声がした。 この声…………!! トオルは声がする方を振り向く。 そこには自分にタオルを差し出す千尋がいた。 !!! 突然の事でフリーズするトオル。 えっ?えっ?なんで?うわっ!マジで? 差し出されたタオルを受け取り、 「あ、あの、ありがとう。」 とぎこちなくお礼を言う。 「だって、俺のせいだもん」 「へ?」 タオルで顔を吹きながら変な声を出してしまうトオル。 「ホース踏んじゃってて、まさか顔面に水かぶるって思わなくて」 申し訳なさそうな千尋。 「着替えた方がいいかも。体操服とか持ってる?」 「えっ?いや、持ってない、今日は体育ないから」 「それじゃあ、俺の持ってくるから待ってて」 千尋は急ぐように教室へと体操服を取りに戻った。 えっーーと、いま、何が起こってんのかな? トオルは頭の中で懸命に整理する。 水かぶって………あの子がきてタオルくれて、体操服取りに行った。 体操服…………うわっ!!あの子から借りれるの? マジ? トオルは卒倒しそうだった。 ◆◆◆◆◆ 千尋が体操服を持って戻ってきた。 ズボンは濡れてはいないので、上だけを借りる事に。 校舎の角で着替えタイム。 1つ年下の彼から借りた体操服は少し大きい。 くそう!やっぱ、スポーツとかやって身体鍛えようかな? 着替えが終わり待っててくれた千尋に再度お礼を言う。 「あ、でも、体操服あるって事は授業あるんじゃない?」 今更気づく。 貸して貰った体操服はまだ使われていなかった。 「あったんだけど、見学してた。まだ、体調戻ってないから」 「えっ?どうしたの?大丈夫?」 「ちょっと風邪ひいて、まだ、ダルいから」 風邪? 「だから見かけなかったんだ?ずっと、休んでた?」 「うん」 そっか、風邪かあ。 「あのさ、最近、図書室来ないよね?」 自分でもビックリするくらいに言葉がスラスラ出てくる。 「えっ?あっ、うん………早く帰らなくちゃいけなくて。でも、もう、早く帰らなくていいから、また図書室に寄るけどね」 「えっ?ほんと?」 嬉しくて、トオルは声が大きくなってしまって、慌てて口を押さえる。 「あ、あの、いや、ほら、いつも見る人が居ないと寂しいって言うか……」 大きな声を出して急に恥ずかしくなってしまったトオル。 しどろもどろになってしまった。 「…………前に昼休みに本を返しに行ったら居なかったから、昼休みは居ないんだなって思った」 はい?いま、なんて? なんて言ったの?俺が居ないって…… 「う、うん、昼休みは1年が当番で」 「クラスの奴だったから、放課後にいつもいる人は?って聞いたら放課後しか居ないって」 マジか!!マジかよ!おい! 俺の事、聞いてくれてたんだ!! 「放課後は月曜日から金曜までいる!!」 「うん、知ってる」 クスクス笑う千尋。 笑うと凄く幼くなって可愛い。 「あの、俺、神林……神林亨!」 「うん、知ってる。神林とか、とおるとか、友達に呼ばれてるから」 うわ!!まじ?まじですかあーー! 俺の名前知ってる! 「俺の名前は知ってるよね?」 「う、うん、西島千尋」 「良かった、覚えててくれて」 また、ニコッと千尋は笑う。 うわ!もうどうしよう。 いま、死んでも後悔しない。 次の会話!って、思ってたらチャイムが鳴った。 「じゃあ、図書室で!」 千尋はそう言って教室へ戻っていく。 トオルは後ろ姿を見つめながら幸せに浸っていた。

ともだちにシェアしよう!