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第5話
◆◆◆◆◆◆
あの昼休みの時に話して1週間、彼の姿を見なかった。
花壇にいても、図書室に行っても彼は居なくて、自分が見ないだけかな?それとも病気かな?なんて、考えていた。
もっと、仲良くなっていたら、どうして学校で見ないのか聞けたのに。
あんなに楽しみだった図書室へ行くのにも何だか行きたくなくて、サボろうかな?なんてまで思ってしまう。
そして、次の週の月曜日。
日課になってしまった花の水やりをしていたトオルだが、引っ張ってきたホースから水が出ない。
あれ?何か詰まってる?ってシャワーの先をのぞき込んだ瞬間、コントのように水が勢い良く出てきた。
あ〜〜、もう!!なんだよコレ!!
顔もだけど、制服が濡れてしまって、ポケットにあるはずのハンカチを探す。
「それじゃあ、間に合わないんじゃない?」
聞き覚えのある声がした。
この声…………!!
トオルは声がする方を振り向く。
そこには自分にタオルを差し出す千尋がいた。
!!!
突然の事でフリーズするトオル。
えっ?えっ?なんで?うわっ!マジで?
差し出されたタオルを受け取り、
「あ、あの、ありがとう。」
とぎこちなくお礼を言う。
「だって、俺のせいだもん」
「へ?」
タオルで顔を吹きながら変な声を出してしまうトオル。
「ホース踏んじゃってて、まさか顔面に水かぶるって思わなくて」
申し訳なさそうな千尋。
「着替えた方がいいかも。体操服とか持ってる?」
「えっ?いや、持ってない、今日は体育ないから」
「それじゃあ、俺の持ってくるから待ってて」
千尋は急ぐように教室へと体操服を取りに戻った。
えっーーと、いま、何が起こってんのかな?
トオルは頭の中で懸命に整理する。
水かぶって………あの子がきてタオルくれて、体操服取りに行った。
体操服…………うわっ!!あの子から借りれるの?
マジ?
トオルは卒倒しそうだった。
◆◆◆◆◆
千尋が体操服を持って戻ってきた。
ズボンは濡れてはいないので、上だけを借りる事に。
校舎の角で着替えタイム。
1つ年下の彼から借りた体操服は少し大きい。
くそう!やっぱ、スポーツとかやって身体鍛えようかな?
着替えが終わり待っててくれた千尋に再度お礼を言う。
「あ、でも、体操服あるって事は授業あるんじゃない?」
今更気づく。
貸して貰った体操服はまだ使われていなかった。
「あったんだけど、見学してた。まだ、体調戻ってないから」
「えっ?どうしたの?大丈夫?」
「ちょっと風邪ひいて、まだ、ダルいから」
風邪?
「だから見かけなかったんだ?ずっと、休んでた?」
「うん」
そっか、風邪かあ。
「あのさ、最近、図書室来ないよね?」
自分でもビックリするくらいに言葉がスラスラ出てくる。
「えっ?あっ、うん………早く帰らなくちゃいけなくて。でも、もう、早く帰らなくていいから、また図書室に寄るけどね」
「えっ?ほんと?」
嬉しくて、トオルは声が大きくなってしまって、慌てて口を押さえる。
「あ、あの、いや、ほら、いつも見る人が居ないと寂しいって言うか……」
大きな声を出して急に恥ずかしくなってしまったトオル。
しどろもどろになってしまった。
「…………前に昼休みに本を返しに行ったら居なかったから、昼休みは居ないんだなって思った」
はい?いま、なんて?
なんて言ったの?俺が居ないって……
「う、うん、昼休みは1年が当番で」
「クラスの奴だったから、放課後にいつもいる人は?って聞いたら放課後しか居ないって」
マジか!!マジかよ!おい!
俺の事、聞いてくれてたんだ!!
「放課後は月曜日から金曜までいる!!」
「うん、知ってる」
クスクス笑う千尋。
笑うと凄く幼くなって可愛い。
「あの、俺、神林……神林亨!」
「うん、知ってる。神林とか、とおるとか、友達に呼ばれてるから」
うわ!!まじ?まじですかあーー!
俺の名前知ってる!
「俺の名前は知ってるよね?」
「う、うん、西島千尋」
「良かった、覚えててくれて」
また、ニコッと千尋は笑う。
うわ!もうどうしよう。
いま、死んでも後悔しない。
次の会話!って、思ってたらチャイムが鳴った。
「じゃあ、図書室で!」
千尋はそう言って教室へ戻っていく。
トオルは後ろ姿を見つめながら幸せに浸っていた。
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