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15年前 #4 side Y
次の日、約束通り、俺は病院の中庭で冬真君が来るのを待っていた。両手に昨日話した玩具や漫画を抱えながら...
(昨日、あんなに嬉しそうに笑っていたのに...もう忘れちゃったのかな...)
15分待ち...30分ほど待っただろうか...病院の建物から、昨日、冬真君を連れて行った女性が出てきた。女性は俺を見つけると、慌てて走ってきた。
「ごめんなさい。随分お待ちになったでしょ?」
「あっ、大丈夫です。全然。」
「お暑いなか、ごめんなさいね。さぁ、中で何か冷たい物でも頂きましょう。」
女性は俺の荷物を持ち、食堂へ入って行った。断ろうと思ったが、玩具と漫画が彼女の手中にあるので、仕方なく彼女に従った。食堂のテーブルに着くと、女性は注文したクリームソーダを俺の目の前に差し出した。
「さぁ、どうぞお召し上がりください。」
「あっ、ありがとうございます。あのぉ...冬真君はどうしたんですか?」
ますば、お礼を述べて、一番気になっていることを聞いた。
「冬真さんは、今朝になって急に熱を出しましてね。うわ言でずっと、あなたのお名前を言っていたんです。それで、冬真さんが今日、あなたにお会いすると仰っていたのを思い出したんです。ごめんなさいね。もっと早くに気が付くべきでした。そうしたら、お待たせすることもなかったでしょうに...」
「それで...冬真君は...大丈夫なんですか?」
「えぇ。今日一日ゆっくり休めば、大丈夫だと思います。」
「良かった~」
「葉祐さんは、とてもお優しいんですね。」
「えっ?」
「昨日、あれから冬真さんは、あなたのお話ばかりしていました。私はあの方が2歳の頃からお側にいますが、あんなに楽しそうにお話してくださいましたのも、久々の様な気がします。それ以上に、他人の方のお話をしたのは、初めてだと思います。昨日が余程、楽しかったんでしょうね...お可哀想にあの方は、ここ最近、死ぬこと以外、何も考えていないところがありましたから...」
『どうしてですか?』
本当はそう聞きたかった。でも、彼女の悲痛な表情を見て、子供心にも聞いてはいけない様な気がした。
「その玩具と漫画...冬真君が元気になったら、見せてあげてください。」
「でも...葉祐さんの宝物ではないんですか?」
「宝物だから見せてあげたいんです...友達だから...」
女性が一瞬驚いて、それから一筋の涙を流した。
「ありがとうございます...本当に...ありがとう......」
女性は、泣きながら丁寧に頭を下げた。
「あと...冬真君が元気になったら、お見舞いに行っても良いですか?」
「ええ。もちろん。」
女性は涙を流しつつも、笑顔をくれた。
「あっ、それと...俺の父さんが202号室にいるんです。冬真君が元気になったら、一度、お見舞いに行ってはくれませんか?父さんには俺から言っておきますから...父さん...退屈みたいなんです。冬真君も退屈って言ってたから...俺の父さん、紙飛行機作るのスゲー上手なんです。二人とも退屈しなさそうだし...そうしたら...お姉さん...心配しなくて済むでしょ?」
「まぁ...お姉さんだなんて...名乗るのが遅れましたね?ごめんなさい。私は、里中絹枝(さとなかきぬえ)と申します。ええ...葉祐さんのお父様のご機嫌がよろしければ必ず伺います。冬真さんは、父親を随分前に亡くしているので、とてもお喜びになると思いますよ。」
絹枝さんは、とても綺麗な自身の涙を拭いながら、笑顔でそう言った。
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