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15年前 #6 side Y
絹枝さんに玩具と漫画を預けた後、俺は親父の病室へと向かう。ある目的のために...
病室の前でふぅ~っとゆっくり息を吐く。意を決して病室に入ると、親父がいつも通り
「よっ!」
と手を上げた。
「今日は、遅かったなぁ...何かあったのか?」
「ううん。父さん...一生のお願いがあるんだけど...」
「何だ?何だ?随分かしこまって。」
「あのさっ。来月のお小遣いなんだけど...今日貰えないかな?」
「生意気にも小遣いの前借りか?何に遣うんだ?」
俺は冬真君の話をした。体が弱くて、あまり学校へ行けてないこと。お父さんが小さい時に亡くなったこと。お母さんはいるけど、一緒には暮らしてないこと。玩具や漫画のことはあまり知らないこと。プラモデルの話を一番楽しそうに聞いていたこと...
「今日も色んな話をしようって、約束してたんだけど、今朝、熱出したみたいで、会えなかったんだ。だから、熱が下がったら、お見舞いに行く約束したんだけど、その時、お土産にプラモデル持っていけたらいいなぁ...って思ってさ。冬真君はさ、いつも『死』のことばかり考えていて、昨日もその練習をしていたんだ。俺...冬真君を喜ばせたいって思ったんだ。何でもいいから、楽しいことたくさん教えなくっちゃって...もちろん、プラモデルはプレゼントするだけじゃなくて、一緒に作るよ!プラモデルは作るのも楽しいからね!それに...多分、作ったことないんだろうし...」
「なるほどね~俺の息子は、病院探検に出掛けてから、ちょっと大人になって、スゲー格好良い男になったんだなぁ。」
親父がサイドテーブルの引き出しから小銭入れを取り出し、1000円札を1枚、俺に差し出した。
「喜んでもらえるといいな。センスの良いもの選べよ!」
「うん。ありがとう!」
親父に礼を言うと、俺は慌てて病院を飛び出し、玩具屋まで全力で走った。
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