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お見舞い #1 side Y

昨日買ったプラモデルを抱え、冬真君がいる3階の病室を目指す。エレベーターが3階に到着し、扉が開くと...そこには別世界が広がっていた。親父のいる2階の病室なら、エレベーターのそばにはナースステーション。3階には受付があった。病院の制服を着た女性が立ち上がり、お辞儀をした。俺は焦って、2~3歩後ずさった。 「どちらにお伺いですか?」 「えーっとぉ...部屋番号はわからないんですけど...岩崎冬真君のお見舞いに来たんです。」 「お名前を教えて頂けますか?」 「海野葉祐です。」 「海野様ですね?伺っております。一番奥の5号室へどうぞ。」 「はっ...はい。ありがとうございます。」 受付の女性に礼を言って、親父の病室のある階とは全然違う廊下を進む。木目調の壁と扉...壁には所々絵画が飾られていて、それらが、いかにも威圧感と高級感を醸し出していて、子供心に恐怖を感じた。 5号室の前に立ち、ノックをすると、 「はい。」 と声が聞こえた。絹枝さんだろう。扉を明けて、 「こんにちは。」 と言うと、ベッドに座った冬真君が微笑んでこちらを見ていた。 「冬真君!元気になったんだね!」 「うん。玩具と漫画、貸してくれてありがとう...」 「ううん。元気になって安心したよ!あっ、これ、お見舞い。」 そう言って、ずっと抱えていた包装紙に包まれた箱を手渡した。 「ありがとう...開けてもいい?」 「もちろん!」 冬真君は丁寧に包装紙をはがして、中身がプラモデルだと分かると、とても嬉しそうに微笑んだ。 「ありがとう!」 「明日から一緒に作ろう!」 「作ってくれるの?一緒に?」 「うん。」 「今日からじゃ...ダメ?」 「うん。明日から!そうすれば、また明日が来るのが楽しみになるだろ?」 「そっか...そうだね...」 冬真君が嬉しそうに微笑んだ。それを見て、俺も嬉しくて笑った。それから、絹枝さんの許可をもらい、冬真君と親父の病室に行き、親父に冬真君を紹介した。親父と冬真君も仲良しになった。その時、親父が冬真君の瞳の色が、琥珀色という名前だということと、冬真君の病室が特別室だということを教えてくれた。 親父の退院など、ちょっとした変化はあったが、俺は相変わらず、毎日、冬真君のお見舞いに行った。日曜日には親父も一緒に行ってくれた。冬真君も最初に会った頃に比べると、元気になっていった。元気になったからこそ、俺は冬真君に聞いてみたいことがあった。 「なぁ?冬真君の夢って何?」 「夢?」 「うん。」 少し前の冬真君なら、必ず『死』に関することを言っただろう。もしかして今なら、違うことを言うかもしれないと思った。俺に出来ることなら叶えさせてやりたいと思った。冬真君は、しばらく考え込んだ後、 「そうだなぁ…出来るなら走ってみたいかな。」 と小さく呟いた。 「走る?」 「僕...走ったことないんだ...だから...走るって感覚がよく分からなくて...まぁ...泳いだこともないんだけど...」 冬真君は寂しそうに笑った。 「あのさっ。その夢、いつか俺が叶えてやるよ!どうしたら良いか一生懸命考えるからさ。いつか一緒に走ろうよ!」 「ありがとう...」 冬真君は嬉しそうだった。冬真君の笑顔は不思議だった。男なのに...とても綺麗だったから... 俺達は会う度に仲良くなり、この時間は永遠に続くように思えた。だけど...俺達の別れは、すぐそこまで近づいていた...

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