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再会 #2 side Y
15年前...目の前から突然消えた友達を、出張先の交差点で偶然見付けた俺は、ほぼ無意識に彼の手首を掴んでいた。また消えないように...心のどこかでそんな気持ちもあったのかもしれない。だけど、一番は目の前にいる儚げな冬真君が、今までどうやって生きて来たのか知りたくて、彼を食事に誘った。
「あのさっ、このあと予定ないなら、メシでも食わない?」
「あ......今日は特に予定はないんだけど...そんなに時間がないんだ...」
「そりゃ...そうだよね...久々会ったばかりなのに...いきなり二人だけでメシ食うのも...キツイかぁ...」
「いや...違うんだ...今日はここまでバスで来ていて...45分後に出てしまうんだ...最終のバス...」
「えっ?まだ6時台だぜ?」
俺は腕時計を見ながら言った。冬真君はクスクス笑って、
「それだけ田舎に住んでいるんだよ...」
と言った。
「あっ、ごめん。」
俺が謝ると、冬真君は首を横に振った。バスの時間までを条件に、コーヒーでも飲もうと誘った。それには彼も快諾してくれた。近くの喫茶店に入り、注文したコーヒーが出された後、俺は冬真君に尋ねた。
「どんな仕事をしているの?」
「絵を描いてる...主に絵本や児童書の...あとは週に一度...カルチャーセンターで子供達相手に絵を教えてる...今日はその帰り......葉祐君は...?」
「俺はここでは大きな声じゃ言えないけど...コーヒー屋。...って言っても輸入、製造、販売の方。そこの企画。」
「へぇ......」
そして、また沈黙が流れた。今度は冬真君が、それを打破するごとく、
「ごめんね......突然いなくなって...」
「正直、最初はショックで悲しかったけど...でも...冬真君の気持ち...分かったから...」
「......」
「最後にお見舞いに行った時、絹枝さんが俺に白い封筒を渡したの覚えてる?」
「うん......」
「そこにはさ、俺と家族宛てに、突然いなくなることを詫びる事が書いてあった。本当は冬真君と二人、直接お別れが言いたかったけど、恐らく、冬真君が最後まで言えず、静かにいなくなることを選びそうだから...って。それでも、冬真君が俺と離れたくなくて、一度は手術を拒否したこと、別れの言葉が切り出せず、ほとんど眠れていないことが書いてあったよ。それにね...」
俺はスーツのポケットからスマホを取り、二つ画像を冬真君に見せた。一つ目は、冬真君が描いてくれた二人で走っている絵で、二つ目は、最後に二人で撮った写真だった。
「どうして...?どうして葉祐君がこれを持ってるの...?」
「あの後、里中織枝(さとなかおりえ)さんに会いに行ったんだ...」
「織枝さんに...?」
冬真君は驚きを隠せない様だった。
「うん。絹枝さんの手紙に書いてあったんだ。良かったら、織枝さんを訪ねて欲しいって。預けた物があるから、受け取って欲しいって。それがこれ。」
「そっか...いくら探してもないはずだね...」
「絹枝さん...冬真君がこの絵を渡すのを諦めてしまうって思ったみたい...」
「......」
「だから、確実に俺の手に渡るように、お姉さんに託したんだ。優しい叔母さんだね...冬真君の気持ちをよく理解してくれてる...」
冬真君は一瞬目を見開いた。そして、苦笑いをした。
「織枝さんに会ったのなら、知っているはずだよね...」
「うん...冬真君は...織枝さん、絹枝さん姉妹の実のお兄さんの子供なんだろ?」
「うん...」
「それから...冬真君のお母さんにも会ったよ...」
「母に...?」
「初めて病院の花壇で会った時...冬真君...言ったんだ...『お母様は遠くにいる』って。あの時は、離れて暮らしているのかなぁと思ったけど...」
「元気...だった...?」
「俺が行った時は、随分調子が良くて...ずっと縁側で遊んでいたよ...」
「そう......俺は...もう20年ぐらい会ってない...」
「そっか...」
そこで冬真君は、コーヒーに口を付けた。俺もコーヒーを飲みながら、冬真君のもう一人の叔母さん...里中織枝さんの家に行った時のことを思い出していた。
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