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告白 #2 side Y
「葉祐君、まずはお父様だけにお話したいんだけど、良いかしら?」
と織枝さんが俺に尋ねた。
「はい。あの...縁側に座っている女の人は誰ですか?」
思い切って、縁側の人のことを尋ねた。
「あの人はね...冬真の母親なの。」
「お母さん?」
「ええ。」
「少し...お話しても良いですか?」
「今日は随分調子が良いみたいだから、何か言ってくれるかも知れないけれど...冬真の母親はね、心の病気になってしまったの。自分のことも、時々分からなくなってしまうの。何もお返事しなくても叱らないであげてね。それと、何か嫌なことをされたら...大きな声で叫んでね。」
「はい。」
俺は縁側に向かった。
「何してるんですか?」
俺が話し掛けると、冬真君のお母さんはこちらを見た。
「コンコンって...してるの...」
人形の胸に耳を当てながら言った。
「コンコン?ああ...風邪のこと?」
「かぜぇ?」
「うん。風邪を引くと、咳が『コンコン』って出るから...」
「かぜ...びょうき...?」
「うん。病気だね。」
「ばいきん...いっぱい?」
「いっぱいかどうかはわからないけど、菌はいるね。」
俺の言葉に冬真君のお母さんは、それまで耳に当てていた人形を床に置き、それから人形の首を締めた。
「わっ!何してるの?!」
俺は慌てて、お母さんの手から人形を取り上げた。
「コンコン...ばいきん...いる...たいじしなくちゃ...」
「人形でもこんなことされたら嫌だし、苦しいし、悲しいよ。」
「かなし...い...?」
「うん。だからね風邪の時は、背中を撫でてあげるんだよ。」
俺が人形を抱き上げて、その背中を撫でると、冬真君のお母さんは、俺から人形を取り、俺の真似をして人形の背中を撫でた。
「コンコン...なおる...?」
「治るよ...きっと。」
「うれし...い...なおる...」
そう言うと、冬真君のお母さんは、一つ小さく欠伸をした。
「眠いの?」
「うん...おにいさまの...おとなりでねむりたいわ...」
そう言って、縁側に自身の体を横たえた。
「あのっ!」
俺が織枝さんを呼ぶと、織枝さんは驚いて縁側まで来た。
「大丈夫ですか?何かありました?」
「ううん。何だか眠いみたい...」
「あら?弥生さん。こんな所で眠ったらおかしいでしょ?」
「でも...おにいさまのおとなりがいい...」
「お兄様はお客様なの。おかしいでしょ?」
「おにいさま...コンコン...なおした...」
「まぁ?すごい!さぁ、お兄様におやすみなさいして、少し休みましょうね。」
織枝さんが、冬真君のお母さんを部屋から連れ出した。お母さんは『おやすみなさい』は言わなかったけど、その代わり『またきてね』と言った。
そのまま縁側に座っていると、織枝さんが戻ってきて、隣に座った。
「ありがとう、葉祐君。弥生さんがあんなに穏やかに眠りについたのは久々なの。」
「いいえ。」
「お父様には我が家と冬真と冬真のお祖父さんのことを話しておきました。お父様のご意思で、葉祐君には、あなたがもう少し大人になったらお話するそうです。その時が来たら、お父様から聞いてください。」
「はい...」
「それと、お父様から伺ったのですが、冬真は『さようなら』も言わなかったそうですね?」
「はい...」
「悲しい思いをされましたね。ごめんなさい。冬真は怖かったんだと思います。」
「怖い?」
「ええ。色々あって...冬真は幸せを感じたことがない子なの。あなたと過ごした時間が、物心付いてから初めて実感した楽しくて、幸せな時間だったのだと思います。だから『さよなら』を言ってしまうと、その幸せも思い出も消えてしまうと考えたのでしょう。どちらも臆病ゆえの行動です。あなたを傷付けたこと、失礼な態度をとったことは変わりありません。本当にごめんなさいね。」
「どうして...悩んでることを話してくれなかったんだろう...何も怖がることなんてなかったのに...」
「葉祐君は...本当にやさしいのね。」
「俺...絶対に冬真君に会って、言ってあげます!『何も心配するな!』って。」
「ありがとう。葉祐君と友達になった時点で、冬真は幸せを手に入れていたのね...」
織枝さんが小さく呟いた。
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