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切望 side Y

「泣いて...るの...?」 小さく頼り気ない声が聞こえた。涙を拭って、冬真君を見ると、朧気な瞳でこちらを見ていた。 「大...丈夫...?」 「こらっ!どっちのセリフだよ?大丈夫か?」 「ごめん...」 「いいよ。メシは?食べられそう?」 俺の言葉に冬真君は首を横に振った。 「う~ん...何も食べないのは良くないからなぁ…今、ゼリー買ってくるよ。それなら食べられるかな?」 「うん...」 「よし!で、ここからが重要!よく聞いて!」 冬真君は頷いた。 「ゼリー食べて、大丈夫そうだったら、シャワーを浴びる。もしかしたら、これから熱が出るかもしれないんだって。だから、その前に少しサッパリしよう。それから、明日、俺は仕事があって、その後帰京する予定だったけど、休みと繋げて、もう少し滞在するつもり。明日もこの部屋に戻ってくるから、それまで、この部屋で休んで待ってること。勝手に帰っちゃダメ!明日の様子を見て、大丈夫そうだったら家まで送るからさ。いい?」 「うん...葉祐君...昔と変わらないね...」 冬真君はそう言って、クスッと笑った。その笑顔はとても綺麗で、俺はちょっとドキっとした。 「じゃ...じゃあ、行って来るよ。」 俺はそれを悟られないように、慌てて部屋を出た。 部屋を出て、まずは同期の斎藤に連絡をした。さっきの交差点で、偶然旧友に会ったこと。その旧友が倒れたこと。部屋の変更をしたことを簡潔に話した。次に仕事の確認をした。やはり、帰りは直帰で良く、出張の報告書は休み明けの提出だった。休みと繋げれば、こちらには明明後日まで残れることになる。俺は旧友の様子を見てからか帰るので、明日は一緒に帰らないと伝えた。斎藤は了承し、最後に 『葉祐...女か?』 と言った。 「バーカ!男だよ!何なら見る?805号室。」 と返すと、斎藤はゲラゲラと笑った。 次に絹枝さんに連絡をした。さっき冬真君を診察した医師からすでに連絡があった様で、症状などの詳細はもう知っていた。 「時々あるんです...眠れなくなったり、食欲がなくなったり...心配だから、『一緒に暮らそう』って何度も言ってるんだけど...葉祐君がいてくれて本当に助かりました。でも...何故二人は一緒にいるの?」 絹枝さんが尋ねた。出張先の交差点で偶然見掛けたことから、今に至るまでの話と休みと繋げて明明後日まで滞在出来る旨を話すと、 「すみません。私達夫婦は今、揃って外出中でそちらには迎えに行けないの。明後日には帰るので、大変恐縮ですが、それまで冬真のことよろしくお願いします。」 と絹枝さんは言った。俺は快く引き受け、通話を切り、コンビニへと急いだ。 部屋に戻ると、冬真君はベッドで眠っていた。熱が出始めたのかと、額に手を乗せると、冬真君は目を開けた。 「ごめん。起こしちゃった?」 「ううん...」 「ゼリー食べるか?」 冬真君が頷いたので、抱き起こした。ゼリー飲料の蓋を開け手渡すと、冬真君は少しづつ口に含んでいった。俺はその隣で、コンビニのおむすびセットを開いた。 「ごめんね......」 冬真君が突然謝り出した。 「えっ?何で?」 「今日は...こっちでの最後の晩だったはずなんでしょ?」 「まあね。」 「だったら...今頃、会社の人と美味しい物、食べていただろうに...俺のせいで...コンビニのおむすびになっちゃって...」 「バーカ!具合が悪いクセに、変に気を遣わないの!」 俺はそう言って、冬真君の頭をクシャクシャと撫でた。 「あのさ、Kって町に今度スゲー広いショッピングパーク出来るだろ?」 「うん...」 「そこにさ、うちの会社の直営店が初出店することになったんだ。俺はその店の企画担当だから、店が起動に乗るまで、こっちにはちょくちょく来ることになるの。だから、こっちの名産なんて、これからいつでも食べられちゃうワケ。それよりも、冬真君とこうして再会できて、一緒にコンビニのおむすびセット食べてることの方が断然、有意義なの!」 「ありがとう...」 「うん。それより、おむすび少し食べないか?どうせだから、再会記念におむすび、半分こしようぜ。」 「じゃあ...少しだけ...」 俺はおむすびを一つ取り、半分に割る...つもりだったが、具の鮭の塊が一方に寄ってしまうという、変な分け方になってしまった。 「あ...」 冬真君はそれを見てクスクス笑い出した。俺もつられて笑った。冬真君の笑顔は...やっぱり儚げで...とても綺麗だった。多分、この時が最初だったんだと思う... この笑顔を...冬真を守りたい。もう...一人で...泣かせたくない。 心からそう強く思ったのは......

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