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導き#1 side T
窓から外の景色をぼんやりと見ていた。
葉祐君は仕事から戻るまで、この部屋で待つように言っていたけれど...本当は...今すぐこの場から消えてしまいたかった。このまま、葉祐君の側にいたら...この世に未練が残ってしまうから...
今すぐ、灯火が消えてしまっても未練も後悔もない人生。期待をしても、願望を持ってもいけない...何もない人生。それが俺の人生...
でも...それで良い。仕方がないのだから...
このまま葉祐君のそばにいたら...期待してしまう。子供の頃の自分の人生で唯一、楽しくてキラキラしていたあの時間を。期待しちゃダメだ。俺の人生は...期待すればするほど、後で絶望しか残らないんだ...心臓の手術の時もそうだった。走れるぐらいになって、葉祐君に会いに行こうって思ってた...『あの時は怖くて...さようならも言えなくてごめん』って謝ろうって...でも実際は...走れるどころか寿命が少し伸びたぐらいにしかならなかった...
『あぁ...やっぱりな...』
そう思った。
期待した自分がいけないんだ...もう...人生の全てを諦めよう...その代わり...静かに暮らしたい...神様のそばに召される...その日まで...
涙が止まらなかった。自分でもどうしたら良いのか...わからなかった...
背後からカードキーが差し込まれる音がして、ドアが開いた。俺は慌てて涙を拭き、振り返ると葉祐君が立っていた。
「おかえり...」
俺はそれだけ言うのが精一杯で、もう...俯くことしか出来なかった。
葉祐君は俺の手を引いて、俺をベッドに座らせた。それから、俺の前に膝立ちになり、ポケットから自分のハンカチを出して、俺の涙を拭ってくれた。
「ごめん...」
俺がそう言うと葉祐君は、自身の両手で俺の両手を握り締めた。
「冬真...よく聞いて。ちょっと格好良く言い過ぎかもしれないけど...笑わないで聞いてくれよな。冬真が生きてきた時間は...きっと...ツラくて...悲しかったよな?でもさ、冬真のツラくて、悲しい時間はもう終わったんだよ。あの交差点で俺に会った時点で終わったんだ。だから、もう泣かなくていいんだよ。それでも...こうして涙が出てしまうのなら...その理由を教えて...冬真の話...全部聞くから...何でもいいよ。お前を苦しめる物、全部俺に教えて。なっ?」
葉祐君は...あの「生」に満ち溢れた漆黒の瞳で俺を見つめ...微笑みながら...そう言った。
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