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導き #3 side Y

電話の主は、昨日、冬真を背負って帰って来た際、応対してくれたフロント係の男性で、冬真の様子を気に掛けてくれたようだった。 「ありがとうございます。疲労が蓄積していた様です。素早い対応のおかげで、大事に至らずに済みました。」 「いいえ。当然のことをしたまでです。差し出がましいとは存じますが、このホテルの近くに懇意にしている中華料理店があるんです。メニューにはないのですが、頼めば中華粥ぐらいは作ってもらえます。ご友人様にいかがでしょう?」 「ありがとうございます。食欲が全くないみたいで...でも何か温かい物を食べさせたいと考えていたので助かります。」 「いいえ。では、スープに致しましょうか?店の者にどんなスープが良いか相談してみます。海野様はいかがされますか?」 「私の分まで頼むのは、大変恐縮です。私はルームサービスを頼みます。簡単なもので良いので、何かお願い出来ますか?」 「ありがとうございます。では、ボロネーゼでいかがでしょう?」 「はい、結構です。お願いします。」 「では、後ほどお届けに上がります。」 通話を終えると、俺は昨日と同様、フロント係の気遣いに感謝した。冬真の様子をちらりと伺うと、放心状態で横向きのまま、窓の外をぼんやりと見ていた。 それから30分ほど経過した頃、部屋のチャイムが鳴った。ドアを開けると、フロント係の男性が立っていて、ルームサービスと野菜スープを届けてくれた。 「本来は別の係の仕事なのですが、どうしても気になったもので...申し訳ございません。」 「お気遣いありがとうございます。野菜スープの代金をお支払いします。おいくらですか?」 「代金は結構です。」 「いや...それは...いくら何でも...」 「良いんです。是非そうさせてください。私事で大変申し訳ないのですが...ちょっとした罪滅ぼしのつもりなんです。」 「罪滅ぼし?」 「ええ。海野様のご友人は、私の大学時代の友人にとてもよく似ているんです。ついこの前、同窓会があったのですが...そこでその友達が、もう20年以上前に亡くなったことを知りました...あの時...何も力になってやれなかったので...こうして、よく似た方の窮地の際に、おそばにいたのは、何かの巡り合わせではないかと考えました...おっと...おしゃべりが過ぎましたね。さっ、どうぞお気になさらず、温かいうちに召し上がってください。」  「ありがとうございます。そういう理由でしたら、遠慮なく頂きます...あの...下世話な様で恐縮ですが、そのお友達とは卒業後、一度も会わなかったのですか?」 「はい...もうすぐ卒業って頃に、突然いなくなったんです。あとから知ったのですが、駆け落ちでした。本当に純粋で...良い奴だったんです...光彦は...」 フロント係の男性がそう言うと、冬真が突然立ち上がった。表情を覗き見れば、驚愕の表情だった。ほぼ無意識に歩いて、フロント係の前に立った。 「どうした?冬真?」 俺の言葉は、冬真には届いていないようだった。 「お友達...の...名前...は..何て...いうんです...か...?」 冬真の様子に、フロント係は驚いた様だったが、すぐに微笑んで、 「光彦。里中光彦です。」 と言った。 「さとな...か...みつ...ひこ...」 そう呟くと、冬真は後退りをし、気を失いそうになった。 「危ない!」 俺は慌てて、冬真を後ろから抱き締めた。 「冬真!大丈夫か?冬真!」 俺の言葉に、冬真は閉じかけた瞳をゆっくり開いて、 「父さん...」 そう小さな声で言って、またゆっくりと瞳を閉じた。

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