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異変 #6 side T
「う.....ん....」
気が付くと家とは違う、だけど、見慣れた天井が目に入った。
あぁ...診療所...
また...運ばれちゃったんだ......
葉祐君には知られたくない...
知られたら...きっと嫌われる...面倒な奴だと...呆れられて...もう会えなくなる...
早く帰らなくっちゃ...葉祐君が来る前に...
どれぐらい眠っていたのかな...早く...早く家へ...
起き上がろうとするけれど、体が思うように動かない...どうしよう...
「冬真...?気が付いた?」
一番大好きだけど...今は...一番聞きたくない声が聞こえた...視線を左側に移すと、 葉祐君がこちらを見ていた...
もう...ダメだ...知られちゃった...
涙がぽろぽろこぼれ落ちた。涙で葉祐君がどんどん曇って見えなくなる...
葉祐君が困った顔をした。
呆れられたんだ...仕方がない...諦めなくっちゃ...
そう思った...だけど...
「冬真.....一人で頑張ったな...」
予想に反して、葉祐君がそう言って、俺の髪に手を入れて、髪を梳いてくれた...僕は...葉祐君がこうしてくれるのが大好きで...葉祐君に髪を梳かれると...心がとても落ち着くことを...二人で過ごす時間の中で知った。
「よく頑張ったよ...でも...もう一人で頑張りすぎちゃダメだ。冬真はもう一人じゃないんだ。冬真の苦しみは、俺達二人の苦しみに変わったんだよ。だからさ、一緒に考えて、一緒に乗り越えよう。まぁ...そう言う割りに...頼りなくて...ホント申し訳ないんだけどさ...」
葉祐君は...申し訳なさそうに笑った...僕は...体が思うように動かなくて...だから...出来る限り首を横に振った。
「目が覚めたら、診察して、家に帰っても良いって言われたけど...体...つらそうだなぁ...もう少し休んでいくか?冬真はどうしたい?」
「......家に...俺達二人の家に...帰りたい......」
「そっか。うん。帰ろう...俺達二人の家に...じゃあ...先生呼んでくるから...」
「うん。」
葉祐君は病室を出て行った。
診察が終わり、たくさんの薬が処方され、服用を条件に、帰宅出来ることになった。しかし、歩こうとすると、ふらついてしまって、上手く歩けなかった。
「う~ん...もう少し休んで行った方がいいかな...」
天城先生の言葉を聞いて、僕は葉祐君を見た。葉祐君はちょっと苦笑いをした。
「そんな不安そうな顔するなよ...大丈夫だから。」
葉祐君はそう言うと、
「ほれっ。」
と、俺の前で屈んだ。
僕も天城先生も看護師も、その意味がよく分からなくて...葉祐君の背中を、ただただ見つめていた。
「おんぶしてやるよ!ほらっ!」
「えっ?」
「恥ずかしがってる場合じゃないだろ?家に帰りたいんだろ?ほらっ!」
とても恥ずかしかったけど...家に帰りたい気持ちの方が勝り、葉祐君の背中に体を預けた...
恥ずかしくて周りの様子を盗み見ると、天城先生や看護師さんの呆気に取られている表情が何ともおかしかった。そんな事、お構いなしに葉祐君は、
「お世話になりました。薬は絶対に飲ませますから...じゃあ...失礼します。」
そう言って、踵を返した。葉祐君におぶわれて、葉祐君の香りと鼓動に安心したのか、急に睡魔に襲われた。でも...葉祐君に...どうしても...今の気持ちを伝えたい...診療所から家までのなだらかな下り坂の途中で、
「葉祐君...」
「うん?」
「俺...幸せだよ...ありがとう...」
そう言うと、葉祐君は、
「ばーか!お前は本当に寡欲だなぁ?俺達はこれから、もっともっと幸せになるんだよ!ここはパァーッともっと貪欲に行こうぜ!」
「うん...」
あまりの心地よさに、返事をするのが精一杯で、俺はすぐに眠りに落ちた...
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