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計画 #1 side Y
本当は泣きたかった。
でも...
冬真も一人で頑張ったんだ...俺が弱気になってどうする!
そう自分を奮い立たせた。
二人で一緒に暮らすのが最善策だ。いっそ、冬真を東京に連れて帰るか...いや、東京で暮らせば、冬真は増々体調不良になり、更に不安定になるだろう...この森だからこそ、冬真は今の状態をキープ出来ているのだから。だったら、今まで通り、時間を見つけてはこちらに来るしかない。
どうしたら...
その時、ふと、冬真が診療所で言った言葉を思い出した。
『俺達二人の家...に帰りたい...』
リビングを見渡した。冬真はここを二人の家だと言った。なのに、ここには『俺』を感じられるものは何一つなかった。しばらく考えて、俺はスマホを取り出し、ある計画を立てた。真鍋さんの協力も不可欠だ。管理事務所にも連絡して......
全ては冬真の体調と環境次第。条件が整えば、決行は明日!
翌日。
冬真はリス達に餌をあげられる様になった。心は安定して来ているものの、体の方は少し怠い様で、何度もベッドで休むように勧めたが、冬真は頑として、それを拒んだ。食事も徐々にではあったが、摂れるようになっていた。
ならば...と、俺は昨日練った計画を実行することにした。
「なぁ?冬真?」
「うん...?」
「お前...デートしたことある?」
冬真は首を横に振った。俺は冬真の前で立て膝をつき、
「岩崎冬真さん...俺とデートして頂けませんか?」
と掌の上に冬真の手を乗せて尋ねた。童話に出て来るちょっと間抜けな王子みたいで、自嘲してしまいそうだ。
だけど...冬真は頬を朱に染めて、瞳を潤ませていた...
冬真は...本当に純粋な奴なんだなぁ…
そう思った。
「な~んて...正直なところ、冷蔵庫スッカラカンだから、行き先はいつものN駅前のスーパーとその少し先のホームセンターだけどさ。お前、ベッドで寝てくれないし、短い時間の外出なら、ちょっと気分転換になるかなって思って...だけど、向こうでは必ず車椅子に乗ること。2ヶ所とも貸し出しがあるからさ。どうする?行くか?」
「うん...行きたい...」
「よし!じゃあ...30分後に出発な!俺は車を取ってくるよ!」
「車...?」
「うん。昨日、管理事務所に連絡して、カーシェアリングお願いしてあるの。ドライブも兼ねて...まぁ...買い物デートだな!その買い物が日用品ってとこが色気がなくて...もの悲しいけど...」
「ううん...俺...楽しみ...とても...嬉しい......」
「おっ、心なしか顔色が良くなったな。早く準備しておいで。」
「うん。」
冬真は嬉しそうに微笑んだ。その微笑みは...俺の心を鷲掴みにした。
それから30分後、俺達は初めてのデートに出掛けた。
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