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紅い花 side Y

このまま冬真を抱いてしまいたい... このまま...冬真の中へ... 冬真の甘く柔らかい唇と舌を離せない俺の頭の中で警鐘が鳴る。 大切なんだろ? 守ってやるんだろ? 後ろ髪引かれる思いで、冬真の唇から離れた... はぁぁぁ...... 冬真が甘い吐息を漏らした...... 堪えきれず...冬真を腕の中に収めた... 昨日、初めて見た睡眠遊行症に似た意識がハッキリしていない冬真。俺を失うことを恐れていた... そんな冬真をこれ以上追い詰めるなんて...出来やしない... この心身の状態で、冬真は今までよく生きて来れた思う。『死』ばかりを見つめて生きて来たが、自らそれを選択することはしなかった。そうしなかったのは、親父さんの無念、お母さんの悲しみが根底にあるのは間違いないだろう... だけど...冬真を今日まで生かして来た物って何なんだろう...? 冬真の幸せって何なんだろう...? 冬真のシャツのボタンを一つだけ外した。案の定、冬真はビクっと体を震わせて、シャツの左胸の辺りをぎゅっと押さえた。 「大丈夫。これ以上は開けないし、これ以上は見ないよ。ちょっとだけ...我慢してな...」 そう言って俺は、冬真の右側の綺麗なデコルテラインの少し下の辺りに、思い切り吸い付いた。冬真の色白の美しい肌に、小さい紅い花が一つ咲いた。 はぁぁぁぁ...... 冬真はまた甘い吐息を漏らした。 冬真を横抱きにして、立ち上がる。 「前も言ったけど、こうして横抱きにした時は、落ちない様に腕を俺の首に回すんだよ。」 「うん......」 そのまま洗面台まで連れて行き、冬真を降ろし、二人で鏡の前に並んだ。冬真のシャツを少しずらし、付けたばかりの小さい紅い花を見せた。 「ほら...冬真...見て...これは約束の花。」 「約束の...花...?」 「うん。俺がお前に咲かせた『俺の人生を掛けて、冬真を大切に守っていくよ。幸せにするよ。』っていう約束の花。だからね...冬真は安心して俺の腕の中で幸せになることと、元気になることだけを考えるんだ。この花は数日経てば消えちゃうけど、これは俺が初めて冬真にプレゼントした花だから...今日のことは忘れないで...」 「うん......」 冬真は俺の胸に顔を埋めた。鼻を啜る音が聞こえるから、泣いているのかもしれない... 大丈夫...お前はこれから幸せになるんだ。そして、どんどん健康になるんだ。しかも...俺の手で...俺の腕の中で... 自分の疚しい気持ちを封印する様に、心の中で自分に何度もそう言い聞かせた...

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