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計画 #3 side Y

昼食はにゅうめんにした。冬真はおおよそ成人男性が摂取するとは思えない少量を、かなりの時間を費やし食した。 今までなら... 「もっとたくさん食べろ。」 そう言っていたと思う... しかし、昨日の冷蔵庫を物色する姿を見て、食べることが苦痛になっているかもしれないと考え、違うアプローチをすることにした。 「うわぁ!スゲー!結構食べたじゃん!もっと残すかなって思ってたよ。うん。はなまる!はなまる!」 そう言って、冬真の頭をくしゃくしゃと撫でた。 馬鹿げている... どう考えても子供騙しだ。25歳の男にすることじゃない。 だけど...冬真は頬を朱に染めて、恥ずかしそうに嬉しそうに微笑む。 お金や物に不自由することなく育った冬真。だけど、子供時代にこんな風に褒められた記憶がないんだろうな...だから、体が弱いという劣等感ばかりが優位になってしまい、自己肯定感に乏しい。こんな些細なことが、嬉しくて仕方がないのだろう。 冬真の幸せは、案外、こんなちょっとしたことの積み重ねなのかもしれない... そう思った... 本当は少し横になって休んで欲しいけど、言ったところで、どうせ拒否するに決まってる。その証拠にさっきから俺の側を離れない。 「あのさ。これから寝室の模様替えするけど、冬真も一緒にやる?」 「うん。」 まずは緞帳の様な重厚なカーテンを外し、レースのカーテンとベージュのカーテンに付け替えた。それだけでも、随分と明るい印象の部屋に変わった。それから、ベッドの足元の方の天井に、フック付きのネジを取り付けた。 「何するの...?」 冬真はちょっと不安そうに尋ねた。 「うん?これを飛ばそうかと思ってさ...」 そう言って自分の鞄の中から、大きなソフビ人形を2体取り出した。 「あっ......これ...」 冬真が珍しく、少し大きい声で言った。 このロボットが出てくるアニメは、子供の頃放送されていて当時も大人気だったが、時代を経て、未だに人気があった。2体のロボットが協力して悪を倒し、地球を守る...そんなストーリーだった。1体は俺が初めて冬真にプレゼントしたプラモデルと同じキャラクターだった。 「この大きさはさ、なかなか売ってないんだよ。これゲットするのに、ゲーセンでスゲー粘ったの。」 「葉祐...子供みたい...」 冬真はクスクス笑った。 「いいの。いいの。まぁ見てて!」 ロボットの手足をてぐすで結び、それをフックに取り付けた。2体のロボットは、空を飛んでいるかの様だった。 「ちょっと...待ってて...」 冬真は部屋を出て行き、すぐに何か手にして帰って来た。冬真の手の中には、プラスチックケースがあり、その中には、あのキャラクターのプラモデルが入ってた。 「俺があげたヤツ?」 「うん...」 「まだ...持ってたの?」 「だって...宝物...だから...」 「そっか...」 俺は冬真の髪をくしゃくしゃと撫でた。そして、二人でベッドに横になり、天井を見上げた。 「なぁ?」 「うん...?」 「本当に空飛んでるみたいだな。」 「うん......」 「我ながら妙案だったな。最初はサイドテーブルに置こうとしたの。昨日、急に思い付いてさ...」 冬真からは何の返事もなかった。気になって覗いてみると、冬真はもう...うつらうつらとしていて眠りに就く直前だった。 「冬真...疲れた?眠い?」 やはり、冬真から返事はない。俺は冬真を引き寄せ、胸の中に収めた。 これでもう...この部屋は寂しくないだろう...? 二人でブランケットにくるまった。 「葉...祐...あ...た......ね...」 冬真が遠退く意識の中で、一生懸命、俺に何か伝えようとしていた。しかし、眠気には勝てず、そのまま眠りに就いてしまった。 あまりに子供っぽくて、あまりに愛おしくて、思わず頬が緩んでしまう... 「冬真...お前...何が言いたかったの?っーか、どっちが子供だよ。」 そう呟いてから、冬真の額にキスをした。 それから、俺も瞳を閉じた...

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