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計画 #4 side T
朧気な視界が徐々にクリアになって...目の前に逞しい胸板が見えた。
「葉祐......」
その温かい胸から離れ、端正な寝顔を見上げた。頬をそっと撫でると、少し痩せたように感じた...
ごめんね...疲れているよね...
平日に会社で働いて...休みになるとこっちに来て...休暇を楽しむどころか僕の世話ばかり...
面倒でごめんね...
何も出来なくてごめんね...
何も返せなくてごめんね...
葉祐には『ごめんね』しか言えないよ...
出来ることと言えば...こうして...俯くことばかり...
本当にごめんなさい......
「どうした......?」
見上げると、あの漆黒の瞳が優しげにこちらを見ていた。
「ううん......何でもない...」
「でも...泣いてるよ。」
そう言って、シャツの袖で涙を拭ってくれた...
「大丈夫......」
「本当にぃ?」
葉祐は顔を覗き込んで、からかう様に言った。
「冬真が考えていること...当ててみようか?」
「えっ......」
俺は言葉を詰まらせた。
「よ~し!冬真が今、考えているのはね......」
怖くて...本当は耳を塞ぎたい...
「冬真はね...今、『葉祐、好き好き!大好き!チューしたい!』って思ってる!そうでしょう?」
葉祐がおどけるように言った。突拍子もない答えに、俺は呆気に取られ、笑ってしまった。
「あははははは...」
「何だよ~スゲー失礼だよ。」
葉祐はちょっと膨れっ面で言った。
「あはは...ごめんね...あはは...」
「冬真?」
「うん?」
「それで良いんだよ......」
葉祐は急に真顔になった。
「えっ...?」
「お前はさ、そうやって俺の腕の中で、ずっとずっと笑ってればいいの!」
「葉祐...」
「冬真のこと...面倒だとも思わないし、呆れたりもしないよ。だからね、お前はそうやって...安心して、何も考えずに笑ってれば良いんだよ。分かる?」
「でも......」
「一緒に取り戻すんだよ!」
「取り戻す...?何を...?」
「冬真が諦めて来ちゃったもの...ぜーんぶ!例えば、旅行や海水浴。泳ぐことは出来なくても、海に入ることは出来るだろ?それから...遊園地。行ったことある?」
俺は首を横に振った。
「乗り物には、ほとんど乗れないだろうけど、雰囲気は味わえるし、どれか一つぐらいは乗れるよ!だからさ、冬真は何も気にせず、誰に気負うことなく、安心して元気に...幸せになることだけを考えるんだ。まずは元気にならないと何も始まらないからさ。」
「出来るかな...」
「出来るよ!そうだなぁ...まずは手始めに映画かな。映画館で映画は?観たことある?」
「ううん...」
「よし!冬真の調子が良かったら、明日か明後日にでも行こうぜ!」
「うん......葉祐.......」
「うん?」
「ありがとう......」
「うん。」
「俺を......俺のこと......しっかり捕まえていて......」
葉祐はいつもの優しい笑顔で...
「もう手離せないし、どんなことがあっても手離しませんから!」
再び俺を抱き締めながら...そう言った...
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