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心の闇 #2 side Y
その夜、冬真はまたベッドから抜け出した。声を掛けても返事はなく、どうやら意識がハッキリしていない。俺は黙って、冬真の後をついて行く。ふらふらと向かう先はリビングらしい...
もしかして、またキッチン...?
そう思ったが、冬真はキッチンには行かず、リビングの窓際にペタリと座り込んだ。その近くには、配達してもらったばかりの折り畳み式のベッドがあった。冬真は、しばらくそれをぼんやりと見つめていた。月明かりに照らし出された冬真は、幻想的で息を飲むほど美しかった。
意識を失ったのか、ふいにパタリと倒れた。
「冬真?冬真?」
俺は冬真を抱き上げ、必死に呼び掛けた。冬真はすぅっと静かに意識を取り戻した。寝室で寝ていたはずの自分が、リビングにいたことに、かなり動揺していた。
「また......」
そう呟いて、泣き出した。
それは怖いよな...気が付いたら、いたと記憶していない、全然違う場所にいるんだから...
こういう体験ばかりしてるんだろうな...
こんな時...今までどうしていたの?
こんな時...一人でどうやって乗り越えて来たの?
泣きながら震えている冬真の背中を撫でた。
「冬真...大丈夫だよ...もう...大丈夫だよ...」
「....葉祐......?」
「うん?」
「......俺は...いつか...母みたいに...なってしまうのかな......」
寂しげに...震える声で言った...
「違う!それは違うよ。冬真とお母さんは違う!」
「......」
『俺を...俺のこと...しっかり捕まえていて...』
これは昨日、冬真が言った言葉...
この言葉の真意は、単に、もう離れ離れになりたくないという意味の他に、俺達がいるこちら側と、冬真のお母さんがいる心を放棄したあちら側...その波間を漂う自分の手を...放さないで欲しいという意味だったのかもしれない。
「まだ早いよ。水でも飲んで、もう少し寝ようか?」
冬真を横抱きにし、寝室まで連れ戻した。
「ごめんね......ごめんね......」
冬真は、小さくなりながら謝り続けた。
「なぁ!冬真?良いこと...一つ教えてやるよ!」
「な...に...?」
「考え事ってさ、夜にしちゃダメなんだよ。絶対悪い方に引っ張られちゃうから。だからさ、お前はもう寝ちゃいな。お前が寝るまで、ずっと髪を梳いていてやるから...」
「...うん......」
病弱な体を持った父親と繊細な心を持った母親。そして、いつも何かに怯える息子の冬真。
何だかとても切なくて...とても悲しかった...
初めての映画館...行けますように...楽しんでくれますように...
そして何より...今日という日が...冬真にとって、穏やかに過ごせる一日になりますように...
そう祈らずにはいられなかった...
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