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喜怒哀楽 #1 〈哀·喜〉side Y
この日の冬真は喜怒哀楽が激しく、その表情は、まさに目まぐるしいもので...
あぁ...こんな顔して怒るんだ…
こんな事が嬉しいんだ...
なんて...
俺にしてみれば、冬真の今まで知らなかった部分を発見したり、様々な表情が見られたりと、何ともラッキーな一日だった。
ラッキーついでに今日一日で解ったこと…
それは...
冬真は...かわいい...
そして...
そんな冬真がやっぱり愛おしくて...仕方がないということ...
〈哀〉
明け方の件を引きずっているのか、冬真はかなり塞ぎ込んでいた。
「冬真?朝食出来たよ。起きて。」
そう声を掛けるも、返って来るのは、
「食べたくない...」
の一点張り。
今までなら、どんなに食べたくなくても、テーブルに着いて、少量でも口にしていた。しかし、今日はベッドに伏せたまま、起き上がることも、食事を摂ることも拒否した。それは初めて見せる姿だった。
「だ~め!」
「イヤ!」
「ダメって言ったら、ダメ!」
「イヤ...食べたくない...ひどい葉祐...今日は意地悪...」
そう言って、プィっと背中を見せる。まるで駄々っ子だ。しかし、今まで自分の気持ちを表に出すことが出来なかったことを考えれば、こんな子供の様な仕草も、良い傾向に向かっている証拠なんだと思う。
しかも...その子供の様な仕草も、自分だけに見せているのでは...と考え、ちょっと喜んでいる浅はかな自分...バカだなぁ...俺...
「今日の朝食はさ、特別仕様なんだ。絶対喜ぶと思うんどけどなぁ...俺...スゲー頑張ったんだけどなぁ…ちょっとで良いから食べてみない?食べるのが嫌だったら、どんな仕様なのか見に来るだけで良いよ。」
そう後ろから声を掛けて、頭を撫でた。冬真は少し落ち着いたのか、
「食べるの...ちょっとでもいい...?」
そう言って振り向いた。
「うん。食べられるだけで良いよ!でもさ、今日の朝食は、絶対モリモリ食べたくなっちゃうと思うよ!だからさ、早く身支度して、リビングにおいで!」
俺の言葉に冬真はおずおずとベッドから這い出て、洗面所へ向かった。俺はそれを見送り、リビングへ向かった。
〈喜〉
「うわぁ......」
それがリビングに入って来た冬真が発した第一声。
リビングの窓を全て開き、昨日購入した木製のガーデン用テーブルと椅子をウッドデッキに出し、テーブルの上に朝食を並べた。
冬真の手を引いて、テーブルの前に立たせた。
「さぁ...こちらへ」
椅子を引いて、頭を下げ、ギャルソン風に席に着くよう促した。
「ありがとう...」
本来、お坊ちゃまの冬真は、いかにも慣れた様子で席に着いた。
テーブルの上には、トースト、ハムエッグ、サラダ、ヨーグルト、ジュースにコーヒー...ありきたりの、極々普通の朝食メニューが並べられていたが、冬真は目を輝かせ、とても喜んだ。心なしかさっきより随分顔色も良くなり、いつもより食の進み具合も良いように感じた。
食事中、様々な動物が姿を見せたが、どこからか鳥の鳴き声が聞こえてきた時、冬真は瞳を閉じて、鳥の鳴き声に耳をすませた。
その顔はとても穏やかで、鳥と一緒に何か歌を歌っているかのようだった。
その表情は、あまりにも美しく、可愛らしく、俺の心を鷲掴みにした。
食事を終えると、冬真が口を開いた。
「葉祐......」
「うん?」
「朝食...美味しかった...ありがとう...」
「どういたしまして!初めてこの家に来た時に思ったんだ。ウッドデッキで朝食食べたら美味しいだろうなぁ...って。」
「素敵なレストラン...作ってくれて...ありがとう...それから...」
そこまで言うと、冬真は押し黙ってしまった。
「どうした?」
「さっきは...わがまま言って...ごめんなさい...」
と言った。
もう...この短時間に何度俺の心を鷲掴みにするの?全く...
俺は堪えきれず、冬真を室内に引き入れ、冬真にキスをした。啄むだけのキスを卒業した冬真...ぎこちないながらも、自らの舌で一生懸命応えていた。理性が何度も持っていかれそうになるが、何とか踏み留まって、冬真から離れた。冬真はあの綺麗な瞳を潤ませて、
「仲直りのキスは...イチゴジャムの味だね...」
といたずらっぽく笑った。
はぁ...きっと無自覚なんだろうけど...可愛すぎるよ...ホント...
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