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打診 #3 side Dr.A

『僕は......セックス出来ますか...?』 冬真は診察後に突然言い出した。 「どうした?急に...」 「あ......ただ...そういうことしても...僕の心臓は...大丈夫なのかなって...思って...」 冬真は頬を赤らめて、ぽつりぽつりと言った。 「私はね...無理をしなければ、大丈夫だと思ってるよ。」 「本当ですか?」 「ああ。」 「あの...無理って...?」 「そうだなぁ...例えば...体調が悪い時に、相手がどんなに求めてきても応じないとか...途中で具合が悪くなったら止めるとかね。」 「そうか...」 冬真は小さく微笑んだ。 「そういうことしてみたい人が現れたんだ?」 誰だか分かってはいるが、聞いてみた。 「はい......」 冬真の顔は、これ以上赤くはならないとだろうと思うぐらい真っ赤だった。まさかとは思ったが、聞かずにはいられない質問をぶつけてみた。 「なぁ?冬真?」 「はい...」 「もしかして...相手に早急に求められているの?」 冬真は首を横に振った。私は安堵する。やはり、葉祐君は浅はかな男ではなかった。 「違います...まだ一度も言われたことはありません...ただ...僕が...その人と...そうなれたら...良いなって思ってて...でも...」 「でも?」 「傷痕が...」 「見られたくない?」 「見られたくないと言うか...やっぱり...見ていて気持ちの良いものではないし...その人が...『気持ち悪い』と思うんじゃないかと考えると...怖くて...」 冬真は俯いてしまった。 バカだなぁ...葉祐君がそんな男じゃないことぐらい、冬真...お前が一番知っているじゃないか。 「冬真…顔を上げて。」 琥珀色の瞳が...不安げに私を見つめた。 「私と君は、君が小学生の頃からの付き合いで、君がどんな風に生きて来たのかも知っている。君がセックスしたいと思う人が現れただけでも、私はすごい事だと思っているし、大前進だと思っているよ。君にそんな風に思わせる人だ。きっと...そんな傷痕なんて全く気にしないほど、大きな愛で君を包んでくれていると思うけどな。」 「そうかな......でも...本当に...大切にしてもらってる...」 「良かったな。君の中で傷痕について決着が着いた時、相手の懐に飛び込んでごらん。相手の人は、どんな君でも受け入れてくれると思うよ。」 「はい...」 「さぁ!葉祐君を随分待たせてしまったね...男だけの飲み会を始めよう!」 二人で寝室を出て、リビングへ向かった。 そこまで一気に話すと、葉祐君はふぅ...と息をはいた。 「そうだったんですか...」 「ああ。」 「実は俺...もうすでに冬真の傷痕...見てるんです。」 「えっ?」 「N駅付近で再会して、冬真が倒れた時...Mホテルに先生のご友人が往診に来てくださったことがあったでしょ?その時...偶然...」 「あの時か...診察してるんだもんな。そりゃ目に入るよな...」 「傷痕見た時...あの細い体で...一生懸命生きて来たんだな...頑張ってたんだな...って思いました...」 「うん。」 「先生?」 「うん?」 「先生が今日、俺に話してくれたこと、俺がすでに傷痕を見ていること...冬真には黙っていてくれませんか?」 「もちろん!でも...何故?」 「俺...冬真が俺の胸に飛び込んでくれる日を待とうと思います。自分の意思で決断して、実行する...それだけでも冬真にとっては大きな第一歩です。そういう記念の日に、二人で幸せになるために、次のステージに進もうと思います。な~んて...ちょっと格好つけ過ぎですけど...」 葉祐君は、頭を掻きながら、はにかんだ。 やっぱり、葉祐君は誠実な男だ。 どんなことがあっても二人の味方でいようと、私は心に誓った。

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