54 / 258

親愛 #1 side Y

どうしても冬真に伝えなくてはいけないことがある... 『冬真が誕生した頃の...ご両親の事を知っている人を探して...その人に会いに行く...』 それを聞けるだけの心の安定さが...彼にあるだろうか? 男だけの飲み会の翌日、冬真はご機嫌ななめだった。恐らく他人から見れば、冬真が機嫌を損ねているなんて、夢にも思わないだろう。 でも、俺には分かる。冬真は機嫌を損ねている。いや、厳密に言うと、落ち込んでいるのだ。理由は恐らく...飲み会の途中で寝てしまったから。 全く...子供かよ... でも、そんな顔を見せるのも俺にだけ... そう思うと...何だか...スゲー...優越感。 「冬真?」 「な...に...?」 「早く...機嫌直しな。」 「べ...別に...そっ...そんな...」 「ストール...してやろうか?」 「............うん......」 冬真は観念したように、小さく頷いた。 ストール......   それは、俺がソファーを背もたれにして床に座り、開いた両足の間に冬真を座らせ、後ろから冬真の肩口を抱きしめてやること... 初めてこれをした時、冬真は、 「葉祐...ストールみたい...」 と言って笑った。それ以来、この行為を二人の間では『ストール』と呼んだ。今の冬真にとって、これが一番お気に入りで、一番リラックスできる方法だった。 俺が定位置に着いた後、冬真を自分の足の間に出来たスペースに招き入れる。冬真は、自身の体を全て俺にゆだね、瞳を閉じた。俺は冬真の髪に顔を埋めた。 「冬真?」 「うん......?」 「機嫌......直った?」 「そっ...そんなこと...」 「昨日、寝ちゃったのが、ちょっと悔しかったんだろ?」 「......」 「仕方ないよ。ほとんど初めての酒だったんだろ?誰にだってあることだよ。」 「葉祐...も...?」 「うん。もっと恥ずかしい失敗...俺にはたくさんあるよ。」 「本当に...?」 「ああ。全然恥ずかしいことじゃないし、飲み会はこれからいつでも出来るよ。」 「そっか...良かった...」 冬真に笑顔が戻った。 「ねぇ…葉祐...?」 「うん?」 「先生と...どんな話をしたの...?」 伝える時は...今だ! 「なぁ...冬真...?」 「うん...?」 「そのことなんだけど...実は俺...冬真のご両親のことをスゲー知りたいって思ってる。」 「えっ......?」 冬真の体が少し強張ったのが分かった。 「ご両親がどんな風に暮らして...お前のことどれだけ愛して...どんな事を思っていたのか知りたい...だから...俺...二人が駆け落ちしてから、親父さんが亡くなるまでの事を知っている人を探そうと思ってる。」 「どうして......?」 冬真は俺から離れ、向かい合う体勢になり、そう言った。その瞳は動揺を隠せない... そうすることが...お前のためで...そうすれば、他人の親子連れを見て、疑似体験しなくても、ご両親の愛を感じることが出来るよ......とは言えなかった... 冬真は小刻みに震え出した。 「愛されて...愛されてなかったら...どうするの...?望まれてなかったら...どうするの...?望まれてなかったら...俺は...どうしたら......いいの...?」 冬真の綺麗な琥珀色の瞳から、ぽつりぽつりと涙が溢れ出した。俺は堪らず、冬真を強引に胸の中に収め、力強く抱きしめた。 「駆け落ちまでして愛し合った二人だぞ!二人の子供を愛さなかったワケないだろ?ないとは思うけど...仮に違かったとしても......俺は親の愛情はやれないけど、俺が三人分、お前を大切にするから!三人分...愛してやるから!」 俺の慟哭に、冬真の震えは徐々に治まっていき、ほとんど感じないほどになった... 「葉祐......ありがとう...」 「......」 「俺......葉祐さえいてくれたら...大丈夫...乗り越えられると思う...」 冬真が小さく俺の胸の中で呟いた。 バーカ......どうして愛されていない前提なんだよ...どうして...そんな風に思う? そっか...お母さんとの事か... いずれ、母親とも会わせなくてはいけないだろう。そうなったら、儚い冬真を一人にするワケにはいかない... 俺は決心する。休み明け、冬真と再会したN駅前にある支社へ...異動願いを提出しようと...

ともだちにシェアしよう!