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親愛 #1 side Y
どうしても冬真に伝えなくてはいけないことがある...
『冬真が誕生した頃の...ご両親の事を知っている人を探して...その人に会いに行く...』
それを聞けるだけの心の安定さが...彼にあるだろうか?
男だけの飲み会の翌日、冬真はご機嫌ななめだった。恐らく他人から見れば、冬真が機嫌を損ねているなんて、夢にも思わないだろう。
でも、俺には分かる。冬真は機嫌を損ねている。いや、厳密に言うと、落ち込んでいるのだ。理由は恐らく...飲み会の途中で寝てしまったから。
全く...子供かよ...
でも、そんな顔を見せるのも俺にだけ...
そう思うと...何だか...スゲー...優越感。
「冬真?」
「な...に...?」
「早く...機嫌直しな。」
「べ...別に...そっ...そんな...」
「ストール...してやろうか?」
「............うん......」
冬真は観念したように、小さく頷いた。
ストール......
それは、俺がソファーを背もたれにして床に座り、開いた両足の間に冬真を座らせ、後ろから冬真の肩口を抱きしめてやること...
初めてこれをした時、冬真は、
「葉祐...ストールみたい...」
と言って笑った。それ以来、この行為を二人の間では『ストール』と呼んだ。今の冬真にとって、これが一番お気に入りで、一番リラックスできる方法だった。
俺が定位置に着いた後、冬真を自分の足の間に出来たスペースに招き入れる。冬真は、自身の体を全て俺にゆだね、瞳を閉じた。俺は冬真の髪に顔を埋めた。
「冬真?」
「うん......?」
「機嫌......直った?」
「そっ...そんなこと...」
「昨日、寝ちゃったのが、ちょっと悔しかったんだろ?」
「......」
「仕方ないよ。ほとんど初めての酒だったんだろ?誰にだってあることだよ。」
「葉祐...も...?」
「うん。もっと恥ずかしい失敗...俺にはたくさんあるよ。」
「本当に...?」
「ああ。全然恥ずかしいことじゃないし、飲み会はこれからいつでも出来るよ。」
「そっか...良かった...」
冬真に笑顔が戻った。
「ねぇ…葉祐...?」
「うん?」
「先生と...どんな話をしたの...?」
伝える時は...今だ!
「なぁ...冬真...?」
「うん...?」
「そのことなんだけど...実は俺...冬真のご両親のことをスゲー知りたいって思ってる。」
「えっ......?」
冬真の体が少し強張ったのが分かった。
「ご両親がどんな風に暮らして...お前のことどれだけ愛して...どんな事を思っていたのか知りたい...だから...俺...二人が駆け落ちしてから、親父さんが亡くなるまでの事を知っている人を探そうと思ってる。」
「どうして......?」
冬真は俺から離れ、向かい合う体勢になり、そう言った。その瞳は動揺を隠せない...
そうすることが...お前のためで...そうすれば、他人の親子連れを見て、疑似体験しなくても、ご両親の愛を感じることが出来るよ......とは言えなかった...
冬真は小刻みに震え出した。
「愛されて...愛されてなかったら...どうするの...?望まれてなかったら...どうするの...?望まれてなかったら...俺は...どうしたら......いいの...?」
冬真の綺麗な琥珀色の瞳から、ぽつりぽつりと涙が溢れ出した。俺は堪らず、冬真を強引に胸の中に収め、力強く抱きしめた。
「駆け落ちまでして愛し合った二人だぞ!二人の子供を愛さなかったワケないだろ?ないとは思うけど...仮に違かったとしても......俺は親の愛情はやれないけど、俺が三人分、お前を大切にするから!三人分...愛してやるから!」
俺の慟哭に、冬真の震えは徐々に治まっていき、ほとんど感じないほどになった...
「葉祐......ありがとう...」
「......」
「俺......葉祐さえいてくれたら...大丈夫...乗り越えられると思う...」
冬真が小さく俺の胸の中で呟いた。
バーカ......どうして愛されていない前提なんだよ...どうして...そんな風に思う?
そっか...お母さんとの事か...
いずれ、母親とも会わせなくてはいけないだろう。そうなったら、儚い冬真を一人にするワケにはいかない...
俺は決心する。休み明け、冬真と再会したN駅前にある支社へ...異動願いを提出しようと...
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