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戸惑い #2 side S (Saito)

葉祐の衝撃的な告白の数日後、俺と由里子、石橋と香ちゃん、葉祐の5人で葉祐のパートナーの家に行くことになった。その家には、東京から車で3時間ほどで到着した。 「えっ?ここに住んでいるの?ここって...いわゆる高級別荘地でしょ?」 みんなが思っている事を、由里子が代表するかの如く尋ねた。 「元々はお祖父さんが所有していたらしいんだけどね...」 車両用ゲートと何か事務所らしきものが見えて、入口には警備員とおぼしき男性が一人立っていた。 「葉祐さん。おかえりなさいませ。」 男性が葉祐に声を掛けた。 「お疲れ様です。冬真は?冬真の様子はどうですか?」 「だいぶ落ち着いてるみたいですよ。一昨日かな...久々にココアに誘ったんです。『もう子供じゃないから、コーヒーで良いですよ。』と叱られました。その時、葉祐さんの会社のコーヒーを頂きました。とても美味しかったです。」 「ありがとうございます。少し持参したので、後で届けます。」 「お友達の皆さんですね?どうぞごゆっくり。葉祐さん、何かあったら遠慮なく声掛けてください。」 「ありがとうございます。真鍋さんがいらっしゃるだけで本当に心強いです。じゃあ!」 男性はゲートを開けてくれて、お辞儀をした。葉祐は車を発進させた。 「随分、慣れた感じだな?」 俺が尋ねると、 「あの人は特別だよ。冬真の成長をずっと見守っていてくれてるんだ。」 葉祐は言った。 成長って何だよ...ガキじゃあるまいし... 別荘地に入ってまもなく、左に道なりに進むと、大きな平屋建ての建物が見えた。 「わぁ!リゾートホテルの離れみたい!あそこがゲストハウスですか?」 香ちゃんが尋ねる。 「最初はそう思うんだよね...あれ...俺達の家なんだ。」 「「「「えっ?!」」」」 葉祐以外の全員が絶句した。 「すごい下世話ですけど...海野さんのお相手の人...お金持ちなんですか?」 石橋が申し訳なさそうに尋ねた。 「知らないなぁ...お祖父さんがお金持ちだったのは知ってるけど。さぁ着いたよ!」 葉祐は車寄せに車を着け、俺達は車を下り、4人は荷物を取り出した。ほとんど荷物のない葉祐は、 「冬真!ただいま!」 と玄関で嬉しそうな声を上げた。 玄関から葉祐に付き添われて出てきた男性に、俺達4人は釘付けになった... なぜなら... 男がとても美しかったから... 美しいだけではなく、色白で細い体から、そこはかとなく色気が溢れ出ていた... 「紹介するよ!俺の...その...恋人の岩崎冬真さん。」 葉祐がそう紹介すると、岩崎と名乗る男は、一瞬にして頬を朱に染め、頭を下げた。 何だよ...ちょっと...かわいいじゃん... 俺がそう思っていると、由里子が、 「かわいい!」 と言った。由里子の言葉に、男は赤面して俯いた。 「横川さん。冬真はそういうの慣れてないんだよ。」 由里子にそう言いながら、葉祐は自然に男の肩を抱いた。 「えーっ!だって事実だもん。仕方ないよね?」 由里子が香ちゃんに同意を求める。 「本当に由里子さんの言う通りですよ!しかも、私達女子から見ても羨ましいほど綺麗ですし...」 「海野さんは本当に良い人で間違いないんですけど...岩崎さん、騙されてませんか?」 石橋まで何言ってるの?全く... 「もぉ...みんな散々な言い方じゃないか?酷いなぁ...」 「葉祐......玄関先で何だから...上がって頂こうよ......」 男は儚げに微笑みながら言った。葉祐は、俺達をリビングに通してくれた。 通されたリビングのあまりの広さに俺達はたじろいだ。各々がソファーや床に座ると、男がグラスに入れた冷茶を出してくれた。それを見た葉祐は、顔色を変えて男のそばに立った。 「冬真...大丈夫...?」 「うん......」 「これどうしたの?」 「真鍋さんから借りた...事務所の...」 「どうして?」 「だって...お客様に...あの食器は失礼でしょ...?」 「俺、代わりの食器類買ってきたから...あれは片付けような。ごめんな...頑張ってくれてありがとう。」 「......うん........」 二人の会話にそば耳を立てたら、そんな事を話していた。 何なんだろう?コイツら... 何か...イラつく... 葉祐は自分の荷物の中から、スーパーの袋を取り出し、キッチンで何やらもぞもぞとし始めた。しばらくキッチンにいて、出てきた時には、盆を持っていた。その上には、違うグラスに入った冷茶があった。 「お茶の差し替え。さっき買ってきた弁当も食べちゃおうか?もうすぐ昼だし。」 何か気に入らねぇ... 葉祐が俺のグラスを替えようとした時、俺はわざと、 「これでいいよ!一口も飲んでねぇし、もったいないから。」 と言った。 「いや。いいよ。どうせだから、冷たいの飲めよ!」 そう言って、葉祐はさっさとグラスを取り替えた。目の前には、豪華な切り子の入ったグラスが置かれた。ワケが分からず、お茶を飲もうとグラスを持ち上げると、それはガラス製ではなく、プラスチックで出来ていた。 「へぇ...プラスチック製なんですね?全然見えない!本物のグラスかと思いました!」 香ちゃんが感嘆の声をあげる。 「スゴいでしょ?この前、スーパーで見付けてさ。グラスだけじゃなくて、皿とか茶碗とか花瓶まであるの。しかも食洗機で洗える優れもの!」 葉祐がおどける様に言った。 道の駅で買ってきた各々の弁当を広げて食べた。俺以外の3人は、男と会話を弾ませ、仲良くなりつつあった。俺は別に男が嫌いなワケじゃない...何故だか分からないが、この男を見ると、何だかイラついた。そして...この男を庇うように接する葉祐を見てるのも、無性にイラついた。 食事の途中で、男が葉祐を呼んだ。 「葉祐......」 「うん?」 「もう.........」 葉祐がちらりと男の弁当を覗いた。俺もつられて覗いて見ると、時間を掛けたにも関わらず、ほとんど食べていなかった。葉祐が何か言いかけたが、それを制するように俺が言う。 「全然食ってねーじゃん!足りるの?」 「...ごめんなさい.........」 男は俺に謝った。 「いや...別に...俺に謝られても...」 葉祐を見ると、今まで見たことない顔で俺を睨んでいた。 「大丈夫!いつもより、たくさん食べたよ!今日は弁当だからさ、多く残した様に見えるだけ......大丈夫!今日も、はなまるだよ!」 「......うん......」 葉祐の言動を見て、俺は更にイラついた。視線を感じてその方向を見れば、由里子までもが俺を睨んでいた。 何だよ...どいつもこいつも......

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