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戸惑い #3 side S

イラつく...イラつく... 無性にイラつくんだよ... 夕食が終わる頃になると、男と俺以外のやつらはすっかり打ち解け、男も少しづつ笑顔が増えていった。現にさっきまで、4人で石橋が持参したボードゲームを楽しんでいた。その様子を、葉祐は男の後でずっと見ていた。男は時折、振り返って葉祐を見た。そんな男に、葉祐は絶やさず笑顔を送った。 イラつく...... みんなで酒を飲んでいるのに、葉祐はのらりくらりと断って、さっきから1滴も飲んでいない。もちろん男も... それにもイラついた... 葉祐はそんな付き合い悪いヤツじゃなかったのに... コイツのせいなのか......? そのうち、男がうつらうつらとし始めた。 「冬真はもう寝た方がいいね。」 「でも......」 「無理して熱でも出しちゃったら、リス見せてあげられなくなっちゃうよ?見せてあげたいんだろ?」 「うん......」 「えっ?リス?!岩崎さんのおうち、リスが来るんですか?」 香ちゃんが目を輝かせた。 「はい......そこの...ウッドデッキに......毎朝...エサを食べに...」 「見たい!」 「ほらね?」 「じゃあ......先に休みます...ごめんなさい......みなさんは...楽しんでいってください......」 男がそう言うと、全員が就寝の挨拶をし、男と葉祐がリビングから出ていった。 何だよ...あれ... そこまで付き合うの?過保護な子供じゃあるまいし... イラつくんだよ...ホント... それから3時間ほど経過して、そろそろお開きにしようとした頃、男がふらふらとリビングに入って来た。それを見て葉祐は、血相を変えて立ち上がった。 「あっ。岩崎さん...」 石橋が何か言おうとした時、 「しーっ!」 葉祐が真顔で、自身の唇に人差し指を立てた。物々しい雰囲気になり、全員が葉祐のそばに集まった。 男はそのままキッチンに入り、冷蔵庫を開け、何か物色しているように見えた。 「何か......何か...食べなくちゃ......」 男は呟いた。 「大丈夫...さっき...たくさん食べていたよ...」 葉祐は男の背後から、小さい穏やかな声で男に話し掛けた。 嘘だ!葉祐が作ったうどんをスゲー時間かけてやっと半分食べただけだ。 「でも......」 「大丈夫...葉祐は......呆れないよ...また来るよ...いつも...君のそばにいてくれるよ......」 何言ってんの? 俺だけじゃなく、みんながそう思っただろう。 葉祐の言葉の後、男は糸の切れた人形の様に意識を失い、後ろに倒れた。そんな男を葉祐はしっかりと抱きとめた。

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