72 / 258
訪問者 #3 side T
葉祐が出掛け、掃除や洗濯などの家事を一通り済ませた後、一人静かにベッドに横になってみる。
下半身が少し重い...
でも...これは...幸せの重み...
葉祐と一つになれた確証......だから...全然平気。
ほんの数か月前には考えられなかった奇跡。出来ることなら...もう一度会って...『さようなら』も言えずにいなくなったこと謝りたかった。でも....会ってしまったらと考えると…怖くて...怖くて...
怒っていたらどうしよう...
許してくれなかったらどうしよう...
そして何より...
俺のこと...忘れていたら...どうしよう...
でも...葉祐はあの時と変わらず...優しくて...惜しみなく愛情を注いでくれて...
本当に...本当に...嬉しかった。
葉祐はずっと一緒にいてくれるって言ってたけど...
それで......それで......良いワケないんだ......
いつか...返さなくちゃ......いつか現れる優しい女性の元へ......
葉祐みたいな素敵で優しい人は...普通に結婚して...家庭を持つべきなんだ......
優しい奥さんや可愛い子供達に囲まれて...生きるべきなんだ...
俺といたら......未来なんてないもん.....
このまま葉祐と一緒にいたら...
同じぐらい優しく接してくれた...おじさんとおばさんに顔向け出来ないもん......
枕に顔を埋めた。
葉祐の香りがして...
心底...安心した。
ごめん...もう少し...もう少しだけ一緒にいさせて...
そうしたら...思い出だけで...生きて行けるから......
ピンポーン
チャイムの音で目が覚めた。いつの間にか眠ってしまったんだ......
葉祐は早く帰ると言ったけど...
ドアを開けるか否か躊躇した。
しかし...チャイムは鳴り続け、半ば根負けして...
俺はドアを開けた。
そこには、一人の男性が立っていた。男性は俺を見て、
「よっ!」
微笑みながら右手を上げた。
それから......とても強い力で俺を抱きしめた...
ともだちにシェアしよう!