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親愛 #3 side Y
「...ごめんね...期待を裏切るような道を選んで...」
俺の言葉に母さんは寂しげに微笑んだ。
だけど......
「なんて顔してるの?」
そう言って、俺の背中をポンっと叩いた。
「そりゃ....最初は驚いたわよ。今どき、色々な恋愛の形があっても良いとは思う。でもね、やっぱり心のどこかで拭い切れないのよ...『まさかうちの子が?』ってね。でもね...相手があの冬真君だって聞いて...実際にあの子に会って...あの子の寝顔を見ていたら、『ああ。これは運命なんだな』って思えてきたの。あの子を幸せにしてやれるのは、確かに葉祐だけだと思う。だけど、私にも葉祐とは違う役割があるんじゃないかって思ったの。」
「母さんの役割?」
「うん...上手く言えないけど…さっき、あの子を不安にさせちゃったでしょ?私は頭を撫でて、お父さんは震えが治まるように手を握ってあげたんだけど...そうしたらね、とても安心したように眠りに落ちたの。でね...改めて思ったの。あの子は...冬真君は親の愛を知らずに生きて来ちゃったんだなって。身なりは青年だけど、中身は膝を抱えた子供のままなんだなって...」
「......」
「親として、たくさんのこと教えてあげたいって思ったのよ。そう考えると、これから忙しくなるわね!可愛い息子がもう一人増えて、教えてあげなくちゃいけないことたくさんなんですもの。」
「母さん......」
「どこまで見てあげられるか分からないけど...」
「まだ決まってないの?退職後の家...」
「うん...転勤が多かったからね...退職後は静かに暮らしたいわ。社宅はもう少しいて良いみたいだから...お父さんと二人、ゆっくり考えるわ。」
「そっか...出来ることがあったら言ってよ。俺で良ければさ。」
「ありがとう。お前は冬真君のことだけを考えてあげなさい。あの子のことだから、お前のために自ら身を引いてしまうかもしれないよ。その辺ちゃんと教えてあげなさい。」
「うん...ありがとう!」
視線の先の冬真を見れば、冬真は親父と抱き合っていた。冬真から離れると、親父はこちらに小走りにやって来た。
「母さん!終の棲家が決まったぞ!」
「えっ?どうしたの?急に......」
「俺は退職したら、冬真と暮らすぞ!!」
「「えーっ!!」」
親父の突然の宣言に、母さんと二人、開いた口が塞がらなかった。
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