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親愛 #4 side R (Ryoko ~Y´s mother ~)
「俺は退職したら、冬真と暮らすぞ!」
お父さんの宣言に、私も葉祐も驚いた。そして...冬真君本人も...
「おっ、お父さん!何言ってるの?」
「そうだよ!冬真には冬真の暮らしがあるんだよ!それに...」
「それに何だ?葉祐。」
「それに......そのうち...俺が一緒に住もうと思ってるんだ!」
「えっ?」
冬真君が驚愕の表情で葉祐を見ていた。
「前から考えていたんだ......今...その準備段階で...」
葉祐がそう言うと、冬真君は伏し目がちになり、少し苦しそうに見えた。男性三人が一斉に黙り込んでしまった。
この状況を打破しなくては...
「お父さんと葉祐は先に帰りなさい。」
「えっ?母さんと冬真はどうするの?」
葉祐が尋ねた。
「お母さんと冬真君はちょっと散歩してから帰るわ。」
「じゃあ......」
葉祐が何か言おうとしていたが、それを遮り、
「ちょっと、二人でおしゃべりしてから帰るわ!」
と少し強めに言うと、お父さんと葉祐は、おずおずと自宅へ向かった。私と冬真君は、近くの公園に入り、ベンチに座った。
「ごめんね。二人とも勝手なことばかり言って...」
冬真君は首を横に振った。
「みんな冬真君が大好きなの。悪気はないことだけは分かってあげてね。」
「ううん...本当は嬉しい...だけど......」
冬真君はそれっきり黙ってしまった。
「あのね...冬真君。おじさんとおばさんね、葉祐から聞いてるのよ。二人のこと...」
「えっ?」
「葉祐はね、『これからは何があっても二人で生きて行くから』って......」
「...葉祐......」
「でも...冬真君はちょっと違うこと考えていたんだよね?だから、二人が一緒に住むって言った時...とても嬉しかったけど...ちょっと困っちゃったんだよね?」
「...おばさん......」
「苦しいよね......おばさんに話してごらん。大丈夫だから......」
「おばさん......俺...さっきのおじさんと葉祐の言葉...本当に嬉しかった...それが実現出来たら...どんなに良いか...本当にそう思います......でも......」
「うん。」
「でも...俺は...いつか葉祐のこと...解放してあげるべきだってずっと思ってて...葉祐みたいな素敵な人は...いつか優しい人と結婚して...可愛い子供達に囲まれて生きるべきだと思っているから......」
「冬真君は?」
「俺は......葉祐に大切にしてもらって...今は本当に幸せで...楽しい毎日をもらってて...だから...葉祐の前にそういう人が現れたら...葉祐からもらった楽しい思い出を大切に生きて行こうと思ってて...」
「そっか。一緒に住んだら...手放せなくなっちゃうし、手放せたとしても辛くなっちゃうもんね。おじさんとおばさんと顔を合わせれば......」
「...うん......」
冬真君はすっかり俯いてしまった。
もう......この子って子は......
自分ばかり傷つけて......
バカなんだから......
ちゃんと...教えてあげなくちゃね......
「冬真君...?」
「はい......」
「冬真君は...ちょっと弱虫だよ!」
私の言葉に冬真君は顔を上げ、揺れる瞳でこちらを見ていた。
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