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親愛 #5 side R (Ryoko ~Y’s mother ~)

「冬真君はちょっと弱虫だよ!」 私の言葉に、冬真君は俯いてしまった。 「葉祐はもう覚悟を決めているよ。誰に何を言われても、冬真君と一生添い遂げようって...冬真君はどうなの?」 「俺だって......出来れば...葉祐とずっと一緒にいたい......でも......俺とじゃ...未来がないから......おじさんとおばさんに申し訳なくて......葉祐には幸せになってもらいたい......でも...俺じゃ......ダメなんだ......もらうばかりで...何も返せないから......」 一度は顔を上げて反論したものの、冬真君はまた俯いてしまった。 「分かった。じゃあ...ちょっと考えてみようか?葉祐は冬真君といる時、どんなことを喜ぶ?どんな時、笑ってる?」 「えっ......?」 「大層な事じゃなくて良いの。本当に毎日のちょっとしたことで良いわ。何だろう?葉祐は、どんな時に笑顔を見せる?」 冬真君はしばらく考え込んでから、慎重に口を開いた。 「......俺の...体の調子がいい時...とか...ご飯を...ちょっと多く食べた時と....それと......俺が笑うと...葉祐も笑う......俺が...楽しいって思った時...葉祐はいつも...笑ってる...」 「ほぉら!もう分かったでしょ?葉祐はね、冬真君が自分の側にいてくれて、元気で笑っていてくれるだけで充分幸せなのよ。何も返してなくないのよ。あなたが幸せに葉祐と共に生きる...それだけで、きちんと返しているのよ。」 「......」 「それにね...おじさんやおばさんに引け目を感じることなんてないの。おばさんはね、何も諦めてないの。もう少し時代が進めば、同性間の結婚も普通になるだろうし、当たり前の様に子供がいると思うのよ。葉祐そっくりでも、冬真君そっくりでも楽しみじゃない?それに...そういう世の中じゃなかったとしても、おばさんには冬真君って息子が出来るんだもの。しかもこの息子、幸せになることをすぐに忘れてしまうから、きちんと監視してないとね。おばさんの役目は大変だわ!おじさんだって同じ。冬真君が可愛くて、心配だからあんなこと言ったのよ。」 「...おばさん......」 「これからはもう少し、自分に優しく生きなさい。人を思いやる気持ちも大切だけど、もっと自分を大切にね。でも......葉祐のこと…とても大切に考えてくれて本当にありがとね。」 「はい....」 「また色々悩んじゃったら、今日みたいにたくさん話そう!一緒に考えてあげる。いつでも頼っておいで。私は今日から、冬真君のお母さんだから...」 「お...かあ...さ...ん...?」 「そう!私はお母さん。おじさんはお父さん。まぁ...冬真君の本当のご両親は、若くて素敵な方だから、おじさんとおばさんじゃ、かなり力不足だけどね。」 私が笑うと、冬真君はどこかホッとしたような表情をした。だけど...今にも瞳から涙が溢れ落ちそうだった。 「おかあ...さん......お...かあさ...ん...」 冬真君はその言葉を、何度も何度も確認するように繰り返した。 「そうよ…私はお母さん...忘れないでね。」 私は冬真君を抱きしめた。 「お母さんって...こんなに...ふわふわで...こんなに...温かい...んだ...」 消え入りそうな声で言った、彼の小さな呟きに私も涙が出そうになった。

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