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女子会 #2 side K (Kaori Sawai)
今日の女子会、由里子さんは最初からかなりヒートアップしていた。その原因は、先週末の斎藤さんとのケンカ。話を聞くと、確かに斎藤さんはちょっと酷くて...今日は荒れそうな予感。上京した岩崎さんを誘っちゃったけど...悪かったかな...
「もぉ!!酷いでしょ?まぁ...確かに遅刻した私が悪いよ!15分の遅刻に対して、何であそこまで言うかな?って感じでしょ?遅刻だって、毎回ってワケじゃないし…せっかく楽しみにしていたレストランだったのに、台無しだったわ!」
「それ...結構キツいですよね...」
「結婚...辞めようかなぁ...」
「えーっ?!」
「だってさぁ…結婚前からこれじゃあ、先が思いやられるし...」
「そんな...早まっちゃダメですよね?岩崎さん。」
私は困り果て、岩崎さんにSOSを出した。岩崎さんは相変わらずの穏やかな表情で、ポツリと言った。
「ケンカ......いいなぁ......」
「えっ?」
「何言ってるんですか?岩崎さん!」
私はあまりに驚いて、声が上擦ってしまう。
「あっ...ごめんなさい...でも...ケンカ出来るほど一緒にいられるんだもん...やっぱり...羨ましいです...」
あっ...そうだった...岩崎さんと海野さんは遠距離カップルだった...
「本当にごめんなさい......変なこと言って...でも...斎藤さんは...とても優しいのに...あまり表には出さない人だから...横川さんが来るまで色々心配したのかもしれないですよ...顔見たら安心して...つい色々言ってしまったのかもですね...」
岩崎さんは、由里子さんに笑顔でそう言った。
いつも穏やかなで綺麗な人だけど、今日はまた一段と美しさが増していた。
「そうかな......」
「そうですよ...きっと...」
「ねぇ、岩崎さん?」
「はい...」
「『冬真君』って呼んで良いかしら?女子会参加記念で...」
「私も!一つ年下ですけど...良いですか?」
「もちろん。」
「じゃあ......冬真君!冬真君は普段、あまり怒らないでしょう?」
「はい...」
「ましてや、あの葉祐君になんて...ねぇ?」
由里子さんは私に同意を求めた。しかし、冬真さんの答えは意外なものだった。
「ありますよ...時々だけど...」
「えっ?あの海野さんが?こんなに優しい冬真さんを怒らせるんですか?私...全く想像出来ません。」
「やっぱりさ...二人にしか分からないことあるのよね...で、葉祐君は何をするの?」
「葉祐は...いつも変なこと...言います...」
「あの海野さんが酷い言葉を発するなんて...」
「意外よね...どんな事を言うの?」
「葉祐...いつも俺に言います...『美人』『綺麗』『可愛い』...使い方違います...俺...男なのに......だから、『使い方違うでしょ?』って、いつも言うんだけど...全然聞いてくれなくて......」
冬真さんはそう言って、ちょっと頬を膨らませた。その姿はとても可愛らしくて...
海野さんは冬真さんのこういうところにメロメロなんだろうな...きっと...
私と由里子さんは呆気に取られた後、すぐに大笑いした。
「えっ...?何で...」
冬真さんは私達を見て小首を傾げていた。
冬真さんは天然さんなんですね!
冬真さん...それは世間では『のろけ話』って言うんですよ。
「あーごめん。ごめん。そうだよね?冬真君は男だもんね。」
「そうです!言われると複雑なんです...誉められているのか...貶されているのか...」
「誉められてますよ!絶対!私、石橋君にそんなこと言われたことありません!」
「私も。いいなぁ...冬真君...」
「本当!羨ましいです!いいなぁ...冬真さん!」
「そうかなぁ...」
冬真さんは首を左右に傾げ、腕を組んで考えていた。
可愛い......
そして、冬真さんは綺麗で穏やかな表情に戻って言う。
「せっかく出会って...結婚を決めるぐらい大好きなのに...ケンカなんてしていたら、勿体ないです...」
「冬真君が言うと説得力ありすぎるね......」
「本当......」
「葉祐は...いつでもありのままの俺を受け入れてくれて...愛してくれて...たくさんの幸せをくれます...優しい葉祐に...俺は何も返せなくて...本当に申し訳ないなって思ってて...だから...葉祐の前に素敵な女性が現れたら、その時は身を引こうって...ずっと考えていたんです......」
「そんな......」
由里子さんはそう言い、私は絶句した。
「でも...昨日、葉祐のお母さんが教えてくれたんです...二人で一緒にいるとき、葉祐を笑顔にさせていたら、それだけでちゃんと返しているって。葉祐のそばで…元気に笑顔で幸せに生きていれば...それだで充分だって。だから...俺......葉祐のために...葉祐のそばで、少しづつ元気になって...笑顔で生きて行こうかなって思いました。俺には...それしか出来ないけど...お二人はもっとたくさんパートナーのために...色々な事が出来るのだから...ケンカしても...すぐに仲直りしなかったら...勿体ないです...」
「そっか...そうだね...家に帰ったら、連絡してみるわ...」
由里子さんの言葉に、冬真さんは、また美しく微笑んだ。
会計を済ませ、店を出ると、外で海野さんが待っていた。
「海野さん!迎えに来たんですか?」
「まぁね!」
「ラブラブですね!」
そう声を掛けると、海野さんは照れくさそうに頭を掻いた。
「葉祐...」
「冬真!どうだ?楽しかったか?」
「うん。」
海野さんと冬真さん、お互いがお互いを見つけると、二人とも嬉しそうに微笑んだ。そして、海野さんは冬真さんの体調を気に掛け、冬真さんに色々尋ねていた。二人は私達に別れの挨拶をし、踵を返し、歩き出した。
途中、海野さんが冬真さんに手を差し出した。冬真さんは微笑みなから、静かに首を横に振った。海野さんは少し寂しそうに笑い、手を引っ込めた。それから、二人は並んで歩き、冬真さんは振り返って、私達に小さく手を振った。
私はその姿を見て...涙が出た......
「何だか...切ないね...」
由里子さんが言った。
「はい。二人とも手...繋ぎたいんでしょうね。」
「うん。冬真君...葉祐君を気遣って、葉祐君に非難の目が行かないようにしてるんだね。私達だったら普通に出来ることも、あの二人だと差別の目で見られちゃうんだね…」
「私達なんかより運命の絆で結ばれた二人なのに......悲しい......」
「でもさ、あそこで葉祐君が普通に手を差し出しただけでも良いんじゃない?だって、葉祐君がそんな目なんて気にもしてない証拠だもん。それぐらい愛してるんだね。」
「そうですね...由里子さん!私達も二人に負けないぐらいパートナーを幸せにするべく頑張りましょうよ!そして...あの二人の幸せ...考えてあげましょうよ!」
「そうだね!方法を考えるべく、もう一軒行くか?」
「了解です!あっ、その前に、ちゃんと斎藤さんと仲直りしてくださいね!冬真さんのためにも!」
「はい。はい。」
由里子さんは苦笑いしながら、バッグからスマホを取り出した。
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