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幻影 #1 side T

ピピ...ピピピ... 部屋に虚しく響く電子音... 「37.6かぁ…微熱だな...」 体温計を見ながら葉祐が言う。 「ごめん......」 「そんな捨てられた仔犬みたいな顔しないの。疲れが出たんだな。今日一日、ゆっくり寝てれば、きっと良くなるから。」 「うん......」 「もう少し余裕を持って予定を組んでやれば良かったな。俺のミス。ごめんな...冬真…」 「葉祐は悪くない!悪いのは俺......ごめんなさい...早く...早く...元気になるから......」 「冬真は何にも気にしないの!気にすると...治るものも治らないだろ?」 「うん。葉祐.......あのさ......」 「うん?」 「あっ...あの.........早く...帰って来て.........寂しいから......」 葉祐は一瞬驚いた顔をして...それから...すぐに俺の大好きな笑顔になって... 「うん!絶対早く帰って来る!可愛い冬真の願いだもん。何が何でも早く帰って来るよ!でも、念のため、冬真の家に帰るのは明日に変更しよう。なっ?」 そう言って、俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。 「うん......」 「今、お粥作るから...出来たら起こしてやるから、それまで少し休んでな。」 「うん......ありがとう......」 早く...早く...元気にならなくちゃ... そして...静かに目を閉じた... あっ......美味しそうな...いい匂い...... 鼻歌?何だか...とても...楽しそう...... 誰......?お母様......? 元気になったの...? 僕はここだよ......ここにいるよ...... 「どれどれ...熱は下がったかな?」 そう朧気に聞こえてきて......おでこにふわりとした感触があって... 「お...かあ...さ...ま...?」 「うん?」 今度は頭にふわりとした感触があった......撫でてくれてるの...? これは......夢...? 意識が徐々にクリアになって... 静かに目を開くと... 「具合はどう?」 そこには...こちらを覗き込む、葉祐のお母さんの笑顔があった。

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