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独占欲 #1 side Y

俺は怒ってる! 会社から急いで帰宅し、新幹線に飛び乗った辺りでは、俺は確実に怒っていた。 二人で一足先に帰るって...何だ? 意味わかんない! 冬真は俺の帰りが待てないほど、1分でも早く帰りたかったのかよ! そんなに東京が嫌だったのかよ! 何で早く言わねーんだよ! 母さんも母さんだよ! 具合の悪い冬真を外に連れ出すなんて! 最終のバスまでの時間を、いつもの駅前のスーパーで買い物をして時間を潰す。無意識にゼリーなどの口当たりの良い食べ物をチョイスしている自分に気が付き、言い訳を始める... これは俺が食べたいんだ!うん! 冬真のためじゃない...... 最終のバスに乗り、流れるように映る窓の景色を見ていると、斎藤の言葉が去来する... 『お前...冬真君のことになると...独占欲丸出しだな......』 そうだ...... 俺は怒ってるんじゃない...... 俺は拗ねてるんだ...子供みたいに...... 独占欲の塊だ...本当に... 格好ワル...... 別荘地に到着し、家の玄関先に立つ。 ふぅ...... 息をひとつ吐いて、呼び鈴を押す。 開錠の音の後に扉が開き、扉の向こうには… 俺の大好きな、可愛い笑顔... 「葉祐!」 そう言って、俺の胸に飛び込んで来る。 「おっとっと......」 抱き止めると冬真の体はまだ少し熱くて... だけど、体調はそんなに悪そうでもないみたいで... 「葉祐!お帰り!」 この笑顔に俺は本当に弱くて...... 今までの自分の思考なんて、ホントどうでもよくなってしまうほどで...... 「具合はどう?」 「うん...大丈夫...朝よりは元気......葉祐...葉祐......」 そう言って、俺の存在を確認するかの如く、自分の顔を俺の胸にぎゅうぎゅう押し付けてくる... 「何で今日無理に帰って来たんだ?めちゃめちゃ心配したんだぞ!」 「ごめんなさい...おじさんとおばさんにどうしても見せたい物があって...そのことで...相談があって......心配掛けて...ごめんね...葉祐......」 「もういいよ。」 そう言って、冬真の額にキスをする。 やっぱり...少し熱い... 「おでこが少し熱いよ。冬真はもう寝た方が良い。」 「うん...もう休むよ......おばさんとの約束だから......」 「約束?」 「うん。こちらに戻って来たら、必ずベッドに横になっていることと、葉祐が帰って来たら、出迎えても良いけど、その後は休むこと。おばさんとの約束...」 そっか......母さん、きちんと冬真の体調を見極めた上で珍しく吐露することが出来た冬真の気持ちを汲んてくれたんだ。冬真のこと、分かってくれたんだ... 「冬真?先にベッドに行ってな。母さんとちょっと話したら、すぐに行ってやるから......」 「うん。」 嬉しそうに微笑む冬真をヒョイと横抱きにして、寝室まで連れて行く。 「あははは...」 小さくだけど...声を出して無邪気に笑う冬真は、俺を見て、安心したのかもしれない。よく考えれば、俺以外の人と長時間一緒にいたの、久々だもんな... 心の中で謝る。 さっきは...大人げないことばかり考えてごめん...

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