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ダブルベッド side Y
「ただいま。」
リビングに入ると、母さんが本を読んでいた。
「おかえり。ご飯は?」
「あぁ...バス待っている間に食べたからいいよ。あっ、これ...どうせ買い物も出来てないだろうと思ったから、明日の朝食買ってきた。」
ビニール袋を持ち上げ渡した。母さんは中身を冷蔵庫に片付ける。
「ありがとう。」
「今日はどこに泊まるの?ゲストハウス?」
「ううん。使っていない和室があるでしょ?掃除して使っていいって言うから、さっき掃除したの。布団は折りたたみベッドのを借りるわ。」
「そっか。冬真の見せたい物って、もう見たの?」
「ううん。元気だったけど、ちょっと微熱っぽかったからね。おじさんが来てからのお楽しみにしましょうって言って、明日にしたの。」
「何なんだろうね?」
「さぁ...でも、あの子が『おばさん、お願いだから...』って言うぐらいだからね。」
「そうだね。俺さ、寝つくまでしばらくそばにいるよ。俺に構わず寝ちゃっていいよ。風呂の使い方わかる?」
「うん。さっき教えてもらって、いつでも入れるよ。」
「うん。あのさ......冬真をここまで連れてきてくれて...ありがとう。」
「ねぇ…葉祐?」
「うん?」
「こんな広い家に一人で住んで...寂しいだろうね...発作や遊行症が起こったら...不安で仕方ないだろうね...」
母さんが珍しくしんみりと言った。
「だから、俺達がいるんでしょ?一緒にいる時はたくさんの愛情で満たしてやってさ。冬真の家族は、俺達しかいないんだから...」
「そうだね......葉祐...お前......」
「うん?」
「あの子と再会して...いい男になったね!」
「何言ってるの?さっきは斎藤に『独占欲の塊』みたいに言われたよ。」
「あははは...冗談はさておき。」
「ちぇっ!冗談かよ!」
「明日には元気になると良いね。」
「そうだね。じゃあ...おやすみ。」
「うん。おやすみ......」
寝室に入ると、冬真はちょっとダルそうに横たわっていた。
「葉祐......」
俺は冬真の隣に横たわった。
「やっぱり広いなぁ...ダブルベッド!俺んちのとは大違い!」
「でも...俺は東京のベッドも好きだなぁ......」
「えっ?何で?」
「だって......ずっと...葉祐にくっついて眠れるじゃない......」
「俺は最初、冬真は東京が嫌になって、先に帰ったんだと思ってたんだよ。」
「えっ?嫌なわけないじゃない......あの部屋の...あのベッドで...俺達...結ばれたんだから...」
冬真は頬を朱に染めながら、恥ずかしそうに、それでも...嬉しそうに言う。
「そうだな...」
「このベッドでも......一つになれるかな......」
「うん!なれる!なれなかったら、俺...グレる。」
「25歳の不良かぁ......質悪いなぁ……」
「だからさ、早く元気になれよ!」
「そういう意味で?」
「色んな意味で!冬真が元気じゃないと、俺も元気じゃなくなっちゃうの!」
「うん...おやすみ......葉祐......大好き......」
「俺もだよ。おやすみ......冬真......」
短いフレンチキスの後、冬真を腕の中に収めて、静かに瞳を閉じた......
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