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見せたい物 #1 side Y
午後3時を過ぎた頃、親父が到着した。
「ありがとう...遠いところ...」
「いや、意外に近いんで驚いたよ。で、冬真君は?」
「寝てる。最近...体力が落ちてるみたいで...」
「仕方がないさ。ここ2週間ばかり、S市に行ったり、東京に行ったり忙しかっただろう?慣れない場所やことが何日も続いたんだ。気疲れもあるだろうし、ペースが戻れば大丈夫さ。」
「うん。」
リビングに入ると、親父はキッチンで今夜の準備をする母さんに、
「よっ!」
と片手を上げた。そして、俺は親父にソファに座るよう促し、冷茶を出した。
「いや~しかし、さすがにこっちは空気がきれいだなぁ......」
「だろ?」
「葉祐、冬真君起こさないと...」
「あっ、うん!」
「いいよ。そのまま寝かせてやれよ。」
「お父さんが来たら、起こす約束なの。可愛いのよ。朝から『おじさん早く来ないかな』ってソワソワしたり、うつらうつらしても頑張って起きようしていたり...」
「それじゃあ、俺が起こしてくるよ。」
親父が腰を上げた。
「もう、冬真を驚かさないでよ?可哀想だから...」
俺は親父に釘を刺す。
「信用しろよ!可愛い息子にそんなことするもんか!」
「前科があるだけに心配だな。」
「えぇ......」
母さんと二人、親父を疑いの目で見たのは言うまでもない。
冬真は親父の訪問を子供のように喜び、すぐに出掛けようと言い出した。
「えっ?見せたい物って外にあるの?」
俺が尋ねると、
「うん。歩いて1~2分かな...行こう!早く!」
冬真が珍しく俺達をせっついた。
よっぽど見せたい物なんだろうな...
冬真の家から、なだらかな登り坂を歩いて1~2分ほどの場所に建つ、一軒の家の前で、冬真は足を止めた。
「さぁ…入って!」
「おいおい!無断で大丈夫なのか?」
親父が言うと、
「大丈夫。許可は取ってあるから...」
冬真は微笑みながら言う。
その家の庭に回ると、眼下には、冬真の家の玄関が見えた。冬真の家のように、森は近くに無いものの、そばには別荘地の花壇が近くにあり、様々な花が植えられ、とても美しかった。
「おじさん...おばさん......ここなんて...どうかな......?」
「「えっ?」」
「冬真...何のこと?」
「家だよ...おじさんとおばさんの。この家に住むのはどうかな...?」
何を...言ってるの?
そこにいた冬真以外の全員が思っていた。
しかし、冬真は親父と母さん、交互に見つめて微笑んだ。
そして......最後に俺を見つめた。
それは...今まで見たことがないぐらい、凛とした強い意思を感じるまなざしだった。
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