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見せたい物 #2 side R( Ryoko ~Y´s mother~ )
冬真君の申し出に、お父さんも葉祐も戸惑った。
そして...私自身も...
「冬真君、ごめんね。何だか唐突過ぎて...」
「驚かせてしまって...ごめんなさい。ここには元々、祖父が存命だった頃、祖父のお世話をしてくださる方が利用する家がありました。祖父が亡くなった時、今の俺の家と一緒に俺が相続することになりました。その際、伯父があの家とこの家を建て替えてくれたんです。いつか...母がこの家で生活できるようにって。そして...いつか一緒に暮らせるようにって...でも...それは実現できませんでした...」
冬真君は少し苦しそうな呼吸をした。
葉祐はそれを見逃さず、冬真君を支えるように、そっと彼の肩を抱きしめた。
「結局、ここは人に貸すことになりました。今、お住まいの方は、来月から娘さんご夫婦と同居されることになって、近々引っ越されます。このタイミングなら、おじさんの退職を前にリフォームも出来るし、どうかなって思って…葉祐のお兄さん一家が遊びに来ても、大丈夫な広さだと思うんだけど...」
「全然余裕だよな?母さん!」
「えっ?えぇ......」
「おじさんや葉祐が一緒に住もうって言ってくれた時、嬉しくて...本当にそうなったらいいなって思った。でも...俺は体も心も丈夫じゃなくて診療所に運ばれてばかり。何も出来ないし、何も返せない...ただただ、足手纏いな存在。それどころか...葉祐の明るい未来やおじさんやおばさんの夢まで奪ってしまう厄介者。だから...葉祐の前に優しくて素敵な女性が現れたら、静かに身を引いて...もらった思い出を大切にしながら生きようって...ずっと思ってた...」
「冬真!それって!」
叫びに近い葉祐の言葉を、私は制する。
「葉祐!最後まで聞いてあげよう...ねっ?」
「だけど...最近、おばさんと話して...色々なことを教えてもらって...考えた。やっぱり、皆で暮らせたら...とても楽しいだろうなって。だから......」
冬真君はその言葉を最後に俯いたきり、何も話さなかった...
きっと...ここまで話すのが精一杯で、話したくても話せないのね...
葉祐を見ると、葉祐は怒っている様な、悲しんでいる様な複雑な表情をしていた。
だから...敢えて明るい声で言う。
「ねぇ、冬真君?家の中は見られるの?」
「はい...今日は一日、荷物を段ボールに詰める作業をしているからって...おじいさんが...」
「そう?じゃあ...見せて頂きましょうか?お父さん!」
「そうだな。」
「お引っ越しの作業中なら、大勢で伺うのは申し訳ないから...冬真君、ご紹介だけしていただける?そうしたら、私達二人で見せて頂くから。」
「はい...」
冬真君は呼び鈴を押した。中からおじいさんが一人出てきて、冬真君の紹介で私達は互いに挨拶を交わした。家に入る寸前、私は葉祐に言う。
「葉祐!悪いけど、もしかしたらビールが足りないかもしれないから、先に帰って、キッチンにあるの全部冷蔵庫にいれておいてくれる?」
「うん。」
「それから、家を見せて頂いた後、この辺り散策するから、帰りがちょっと遅くなるかも...」
「分かった。」
「あとね、『愛すればこそ』この言葉......覚えておいて。」
「なんじゃ?そりゃ?とにかく、諸々了解!」
「うん。じゃあね。」
葉祐は案の定、冬真君の手を引き、帰って行った。葉祐の行動は、明らかに怒りと悲しみに満ちたものだった。
「ありゃ?葉祐は何を怒ってるんだ?」
お父さんにまで見抜かれてるわよ。葉祐......
どれだけ冬真君のこと大好きなんだか。
厄介者押し付けたの私達かもよ。冬真君......
「冬真君が考えてたこと...今、知ってかなりショックだったんじゃないかな。でも大丈夫!遅くても明日の朝には、二人して苺ジャムトースト食べてるから...」
「何だ?それ?」
「いいの!いいの!私達が今、彼らにしてあげられるのは、時間を与えることだけよ!だから、色々見学して、ゆっくり散策しながら帰りましょう!この奥に共同の温泉場があるらしいわよ!見て行きましょうよ!どうせ...お父さんの答えは最初から決まっているんでしょう?」
「まぁね!」
「私も多分同じ答えよ!あの子が諦めなければならなかった夢、叶えてあげましょうよ!」
「だな。まずは財布と相談しなくちゃ。まさか終の住処がこんな立派になるとは想像もしなかったからな...」
お父さんの渇いた笑いがこだまする...
お父さん!私を甘く見ないで!
私には『へそくり』っていう奥義があるのよ!
うふふふふふ......
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